なかでも最も変化が目立っているのが埼玉県です。図表2の折れ線グラフではブルーのラインですが、特に21年7月、10月調査では突出した上昇率になっています。四半期単位で3%台の上昇ですから、年間にすると二桁台のアップになります。それが22年に入って1%台、2%台に上昇率が小さくなっていますが、それでも他の地域に比べると相対的に上昇率が高い状態が続いています。
東京都区部や神奈川県など地価水準の高い地域に比べると割安感があるなか、浦和、大宮などが各種の住みたい街ランキングで順位を上げるなど、住宅地としての注目度が高まってきたことが上昇圧力になったのではないかといわれています。
(資料:野村不動産ソリニューションズ『「住宅地地価」価格動向(2022年4月1日)』)
しかし、注目しておきたいのは、埼玉県であれば、どこでも一様に地価が高くなっているわけではないという点です。かつてのバブル時代には、都心発の地価上昇が同心円を描くように周辺に波及して、同じように地価が上昇しましたが、最近ではそんなことはなくなっています。全体としては上昇傾向であっても、場所によって大きく上がる地点、さほど上がらない地点との格差が明確になりつつあるのです。それは住宅価格に影響しますから、これからの住宅地選びにおいては、その見極めがたいへん重要になってきます。
埼玉県の年間変動率の平均値は12.0%ですが、図表3にあるように、20%以上上がっている地点があるかと思えば、年間変動率0.0%の横ばい地点もあるのです。
駅別の具体的な変動率をみると、最も上昇率が高かったのは、JR京浜東北線などの与野駅の22.4%で、JR埼京線の戸田公園駅が21.1%、JR京浜東北線の浦和駅、JR埼京線・武蔵野線の武蔵浦和駅が20.0%と、20%以上の上昇率になった地点が4駅ある半面、0.0%の横ばいの駅が3駅あります。
注目しておきたいのは、同じさいたま市でも、浦和駅や武蔵浦和駅は20%台の上昇率であるのに対して、大宮駅、北大宮駅は0.0%の横ばいと、まったく異なる動きを示している点です。これは、野村の仲介店舗がある比較的土地取引の活発なエリアが調査対象ですから、仲介店舗がないようなさほど取引が活発とはいえないエリアでは、横ばいどころか、下落している地点もあるのではないかと推測されます。
これは、何も埼玉県だけの動きではありません。最も地価水準の高い東京都区部でも同様です。図表4をご覧ください。22年4月調査で最も年間変動率が高かったのはJR中央線などの中野駅の21.8%で、東急世田谷線の松陰神社駅が21.2%で続いています。中野駅は駅周辺で大規模な再開発が続いており、松陰神社駅は閑静な住宅地ながら、地価がそれほど高くないこともあって、20%台の上昇率になっています。
反対に、年間変動率が0.0%の横ばいの地点も少なくありません。JR総武線の亀戸駅、都営地下鉄浅草線の戸越駅など合計10駅に達しています。住宅地の上昇率は、マンションや一戸建ての相場に大きく影響してきます。マイホームの資産価値を維持するために、どこにマイホームを取得するのか、ピンポイントで将来性を見極める視点が重要になってきます。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)
●山下和之/住宅ジャーナリスト
住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。近著に日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド2021-2022』があり、20232年4月に「2022-2023」の改訂版が発行された。