→回線契約を条件とする2万円の上限を超える利益提供の提示
この覆面調査の結果、大手キャリアの代理店が例外なく、総務省が2019年の改正電気通信事業法で定めた「通信料金と端末代金の完全分離」のルールに違反していることが明らかになった。(この方針についての詳細は拙稿をお読みいただきたい)。
各キャリアは総務省に対し、販売代理店に対する研修強化などで対応すると今後の改善方針を説明したが、特に楽天モバイルは総務省のワーキンググループで「完全分離」を徹底するよう業界各社に呼びかけ、自社が法令遵守を徹底していることを公言していただけに風当たりは強かった。「規律に違反すると判断される事案が複数確認されたとのこと、大変申し訳ございません」と謝罪の回答を出したものの、「二枚舌」「言っていることとやっていることが逆」などと風当たりは強かった。
この覆面調査とは別に、総務省は21年9月10日に開設した販売代理店の不適切行為などの情報提供窓口に寄せられた通報内容も明らかにした。21年9月から22年2月末までの通報は701件で、「通信料金と端末代金の完全分離」違反に関するものは394件と半数を超えた。悪質な例として、ユーザーのものと販売店員と見られる人物からの通報をそれぞれ一つずつ紹介する。
・家族(高齢者)が、出張店舗で、携帯を無料で新しくするとだけ言われたとのことで機種変更をしてきた。持ち帰ったのは新しい機体と薄い冊子だけで、契約書の控えや、販売店が分かるものがなかった。後日、キャリアに確認したところ、料金が2倍以上になっていることが分かったが、料金増等の説明はなかった。キャリアは、高齢者が店舗来訪する場合には家族同伴を注意喚起しているのに、出張店舗ではお構い無しなのか。
・最近ではキャリア営業担当から有料コンテンツの獲得を迫られている。結果、今、現場ではお客様から「無料期間があるからと言って同意のないまま登録させられた」といった相談が急増。
高齢者を騙す手口は言語道断だが、携帯販売代理店が複雑な料金プランやオプション設定などを利用して利用者の実態に合わないような勧誘を行うことは少なくない。実際に総務省は販売代理店の現役店員と退職後1年以内の元ショップ店員に実施した調査も発表したが、顧客の利用実態に合わない高料金プランを推奨したりする不適切な勧誘を行ったことがないと回答したのは全体の4割に満たなかった。また、この調査では、6割が端末単体販売などに応じないように店長や上司、販売代理店の経営層、委託元のキャリアから明示的または暗黙の働きかけがあったと回答している。
「通信料金と端末料金の完全分離」について、なぜこうも販売代理店は法律違反をしてまで拒否しようとするのだろうか。そこには販売代理店業界特有の利益構造がある。販売代理店が携帯キャリアから受け取る収益は、端末販売ごとに受け取る「端末の販売手数料」、契約者が支払う月額料金の一部を受け取る「継続手数料」、そしてアフター対応などの「業務手数料」がある。この手数料や値下げの原資となる販売奨励金は契約実績に応じて携帯キャリア側が決めるため、可能な限り1台でも多く回線契約とセットで販売しないと代理店の存続そのものに関わってくるというわけだ。ある総務省関係者はこう話す。
「2020年のコロナ禍以降の外出自粛などが影響して端末販売量の減少が続き、端末手数料の減収が経営に打撃を与えたことも、今回のような調査結果につながったと思います。当時の菅政権が携帯通信料金の『官製値下げ』を断行して以降、委託元の携帯キャリアも大幅に減収しましたから、販売代理店に回す販売奨励金や手数料の額も減らざるを得ない。オンラインでの携帯契約の割合が増えてくれば、販売代理店はさらに厳しい状況におかれるでしょう」
携帯電話販売代理店の業界では近年、富士通パーソナルズを業界最大手のティーガイアが買収するなど再編が進んでいる。「各社とも利益率が低く、将来性に疑問符がつく業界でスケールメリットを出すという戦略」(先の総務省関係者)だが、それだけ業界全体が追い込まれている証拠ともいえる。
ただ、そうした業界の生き残りとは別に、顧客が欲しくもない料金プランやオプションを勧めるなど不当な営業をしていれば、携帯販売店に行きたくないという消費者が増える一方だ。短期的な利益も大事かもしれないが、アフターサービスや地域密着を強化するなど着実に信頼を積み上げていく方向性も重要だろう。
(文=竹谷栄哉/フリージャーナリスト)
●竹谷栄哉・フリージャーナリスト。食の安全保障、証券市場をはじめ、幅広い分野をカバー。Twitterアカウントは、@eiyatt.takeya 。