任天堂の創業家の資産運用会社、なぜ東洋建設に買収提案?前田建設のTOBを阻止へ

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東洋建設のHPより

 海洋土木大手、東洋建設の株価が東京株式市場の不振を尻目に活況を呈している。任天堂創業家の資産運用会社ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)から1株1000円で買収提案を受けたことを4月22日に公表したからだ。インフロニア・ホールディングス(HD)が、傘下の前田建設工業が資本提携する東洋建設のTOB(株式公開買い付け)を3月22日に開始した矢先だった。TOB期間は5月9日まで。買い付け価格は1株770円と、前営業日の3月18日の終値(599円)から約3割上乗せした価格だ。買い付け総額は579億円に達する。

 東洋建設は2003年、当時のUFJ銀行(現三菱UFJ銀行)などから金融支援を受けた際、前田建設が信用補完のために資本提携し、21年末時点で発行済み株式の20.19%を持つ筆頭株主になった経緯がある。インフロニアHDによるTOB成立後に東洋建設は上場廃止となる。インフロニアHDは洋上風車の施工や港湾土木に強みをもつ東洋建設のノウハウを生かし、中長期的に成長が見込める洋上風力発電など再生可能エネルギー事業での官民連携を目指す。

 21年10月、前田建設が子会社の前田道路や前田製作所と経営統合して発足した時に、インフロニアHDが持ち株会社となった。社名はインフラの革新者(イノベーティブ)、先駆者(パイオニア)、エンジニア・フロンティアという思いを込めた造語だという。

 だが、この経営統合は難産だった。前田建設が持ち分法適用会社だった前田道路を子会社にするため20年1月、TOBを実施。前田道路の経営陣はこれに猛反発し、敵対的買収に発展した。当時、「親子げんか」とゼネコン業界を大いに賑わせたことは記憶に新しい。

 東洋建設はインフロニアHDのTOBに応じることにしていた。ところが、インフロニアHDがTOBを始めて1週間たった3月31日。「WK」1~3という名前の投資ファンドが東洋建設株を5.48%保有しているとする大量保有報告書を関東財務局に提出した。WKは保有株比率を高め、4月19日時点で26.28%を保有、筆頭株主の前田建設(20.19%)を上回った。保有目的を当初は「純投資」としていたが、4月22日に関東財務局に提出した大量報告書で「状況に応じて重要提案行為を行うこと」を追加した。WKはケイマン諸島に籍があり、YFOが出資する。YFOは4月22日、1株1000円でのTOBを提案した。東洋建設の経営陣に対しては、インフロニアHDの買収提案への賛同を撤回するよう求めた。

 東洋建設ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィスとやりとりした書簡3通を公開した。それによると、インフロニアHDのTOB価格は、今後拡大が期待できる洋上風力関連事業や海外への事業展開の成長を織り込んでおらず、「東洋建設の中長期的な企業価値の向上に資するか危惧している」と疑問を呈している。インフロニアHDのTOB価格については「低い金額といわざるを得ない」と主張し、YFOは株式非公開化を前提とした買収を提案した。「買収は東洋建設の経営陣の同意が得られることが前提で、敵対的買収を意図していない」としている。

個人資産を運用するファミリーオフィス

 YFOは任天堂の創業家である山内家の資産を運用するファミリーオフィス(個人資産の運用会社)である。20年6月、任天堂の山内溥元社長から相続した同社株をもとに、孫の山内万丈代表(29)が立ち上げた。運用資産は1000億円を超える。

 22年初め、米国の日本株ファンドのタイヨウ・パシフィック・パートナーズを買収した。タイヨウは01年設立の日本株ファンドで中小型株を中心に30社以下に集中的に長期投資する。タイヨウは経営陣との対話を重視する友好的なエンゲージメントファンドの先駆けとして知られており、「物言う株主」とは一線を画す。運用資産は約4000億円。タイヨウを買収したばかりのYFOが、東洋建設のTOBに参戦した真意はなにか。

 YFOの参戦でインフロニアHDは追いつめられたといっていい。このままでは5月9日を期限とするTOBが成立するのは絶望的だ。買い付け期間を延長し、買い付け価格を引き上げるしかないとみられている。

 旧村上ファンド系投資会社の動きにも関心が高まっている。ゼネコン業界の再編を狙い、投資会社レノが東洋建設株式を7.31%保有していたからだ。インフロニアHDのTOB開始直後に3分の2を売却し、保有比率を1.89%までに落としている。インフロニアHDが統合に失敗し、その一方でYFOが全株の取得に成功すれば、東洋建設は別のゼネコンの傘下に入る可能性が出てくるとみられている。

(文=Business Journal編集部)