ユニクロ・柳井社長、ロシア事業停止の判断「遅れていない」と反論…ウクライナ侵攻で

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ユニクロの店舗

 カジュアル衣料チェーン「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、ロシアの事業停止の判断が遅れたのではないかとの批判に対し、4月14日の決算会見で「遅れていないと思う。テレビ会議で現地の状況は全部わかっている。判断が遅れることはあり得ない」「商品が届かないなど、いろいろな面で継続が困難になった。総合的に判断した」と述べた。将来、ロシア事業をどうするかについては「状況を見極めながら」と説明した。

 柳井氏が公の場でロシアのウクライナ侵攻に関連して発言するのは初めて。「人権を侵害し、平穏な生活を脅かすいかなる攻撃も非難する」と述べ、人道支援としてウクライナに1000万ドル(約11億円)と衣料品など20万点を寄付することを表明。「戦禍に見舞われている方々の境遇に思いをよせ、今後も最大限の支援を続けていく」とした。

事業の継続から、一時停止へ転換した理由

 2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻。ロシアで事業を展開する企業は次々と事業の休止・撤退を決めた。トヨタ自動車などは早々に工場停止に踏み切った。ファストリは2010年、ロシアへ進出し、日本での低価格のイメージとは異なり高級路線で成功。2月末で50店舗を展開し、昨年12月には欧州最大の旗艦店「ユニクロモスクワ」をオープンしたばかりだった。

 柳井氏は3月7日付の日本経済新聞のインタビューで「衣服は生活の必需品。ロシアの人々も同様に生活する権利がある」と語り、ロシア事業の継続を言明した。ところが、事業継続に対する消費者の反応は柳井氏の想像以上に厳しかった。

 駐日ウクライナ大使のセルギー・コルスンスキー氏が不満を表明したこともあり、SNS上ではユニクロ製品の不買運動を呼び掛ける投稿が相次いだ。米ブルームバーグは3月7日、日経新聞での柳井氏のコメントを引用し、ZARAなどを展開するアパレル最大手のインデックス(スペイン)がロシア全店を一時閉鎖したのとは対照的な対応だと報じた。

 柳井氏は3月10日、ロシア事業の一時停止を決めた。事業継続の報道からわずか3日後に一時停止へ転換したことから「迷走」との見方が浮上した。柳井氏の方針転換には、国際政治が影を落としている。「週刊文春」(文藝春秋/3月31日号)は、米国のラーム・エマニュエル駐日大使が自民党の麻生太郎副総裁に不満を伝え、麻生氏が旧知の柳井氏に連絡をとり、ファストリが方針を一転させたと報じた(同社は否定)。同社の2021年8月期のロシアを含む欧州事業の売上高は約1100億円。全117店のうちロシアは4割超を占め、欧州最大の店舗もモスクワにある。期待の成長市場だったことが柳井氏の事業継続の判断の背景にあったと見るアナリストもいる。

 柳井正氏は政治から自立した「独立自尊の商人」を自負しているが、政治とビジネスは不可分の関係になっている。欧米では企業やスポーツ選手も政治的スタンスを明確に示し、曖昧な姿勢だと批判を受けやすい。海外展開する企業は、内乱やクーデターに直面すれば否応なしに対応を迫られる。国際法違反や人道的な側面をどう判断するかが重要になってくる。ファストリには柳井氏に“本音”でアドバイスできる側近がいるのであろうか。

 4月14日に発表した22年2月中間決算(国際会計基準)は、純利益が前年同期比38.7%増の1468億円で過去最高だった。営業利益も12.7%増の1892億円で過去最高。売上高にあたる売上収益は1.3%増の1兆2189億円だった。新型コロナウイルス感染拡大からの景気回復が進む欧米などが好調で、日本や中国の落ち込みを補った。ロシア事業の売上高に占める割合は2%程度だったことを明らかにした。

(文=Business Journal編集部)