ロシア軍侵攻後のウクライナに初めて入った日本人医師が語る、現地の悲惨な状況

 MSFは1999年から同国でHIV、結核、C型肝炎などの治療支援のため活動をしていて、2014年以降は東部ドネツク州で紛争下に暮らす社会的弱者の基礎医療および心理ケアを提供。2月24日以降は緊急援助体制に移行した。現在、国際的に中立的な立場で同国内15カ所、近隣7カ国を拠点を設置。ニーズに合わせて、診療、心理ケア、技術支援、物資提供、患者搬送などを実施し、 約130人の海外派遣スタッフ(うち日本人4人)と、200人の現地スタッフが活動している。

核・生物化学兵器の対応準備「まったくできていない」

 会見の質疑では、欧米のシンクタンクなどがロシア軍による核・生物化学(NBC)兵器使用を警告していることに関し、現地の準備体制を問う質問も出された。門馬氏は次のように回答した。

「私個人の感想でしかありませんが、NBC兵器に関しては、もし起きた時の準備はまったくできていないのだろうなと思いました。日本でも同様です。準備するのは難しく、専門装具も必要です。東京電力福島第1原発事故の時がそうであったように、簡単に対応できるかというと難しいと思います。

 もしそういうことがあったら危ない状況だとは思います。もし、(NBC兵器使用の)可能性が高いのであれば早急にしていかなくてはいけないとは思います」

 またメンタルサポートの必要性も改めて強調し、戦災を逃れた人々のために“安定した場所”をどう作るのかが課題となっていることを挙げた。兄が妹をなぐるようになってしまった幼い兄弟に出会ったことも明かし、「怪我は僕らが治せるが、心理的な治療には別の専門家が必要。一刻も早く安定した場所を与えてあげることが大切」と語った。

 また門馬氏は自身の活動を振り返りながら、今後の日本の支援のあり方などに関して以下のように訴えた。

「私は医者で、外科医で救命医です。ウクライナに行き、患者さんにできることはしたいと思っていましたが、直接の治療の場に入るタイミングではありませんでした。

 こうしたことは日本の災害時でも起きます。“僕のやりたいこと”と“現地で求められていること”はまったく違います。直接治療できなくてもトレーニングで、間接的にお役に立てることを自分の中で繰り返し問いながら、活動を行いました。

 やりたいことより、必要とされることをする。人道支援ではヘルプより、サポートが大事だと思っています。現場の医療、もしくは国が復活するためのお役に立てるための活動が大切だと思います。これから、ウクライナに行く方にとって大切なのは情報だと思います。(日本のメディアでは)どうしても派手な爆撃などが報じられますが、(現地で)なにが必要とされていて、求められているのか、そういうところを私の声を含めて伝えていきたいです」

(文=Business Journal編集部)