ウクライナ危機の影響で中国から投資マネーが逃避し始めているなか、中国の10年物国債利回りは12年ぶりに同年限の米国債利回りを下回る状態となっていることも頭が痛い。米金融当局による積極的な引き締め観測が広がる一方、中国が緩和スタンスを堅持していることから金利差が拡大し、さらなる資金流出の圧力となっている。
カネ不足が深刻な不動産企業にとって「弱り目に祟り目」なのが最近の物価高だ。3月の卸売物価指数(PPI)は前年比8.3%上昇し、なかでも石油や石炭の価格が約5割値上がりした。コスト高と弱い消費の板挟みで不動産企業の収益はますます悪化しており、中国で金融システム不安が起きるリスクが現実味を増している。
危機感を抱いた中国政府は6日、システミックな金融リスクの回避に向け、セーフティーネットを強化するための金融安定化に関する法案を公表した。対策の目玉は金融安定化保護基金の設立だ。基金の詳細は明らかになっていないが、経営難に陥った金融機関を支援するため、中国人民銀行が主導して数千億元規模の資金を集めることを計画しているという(3月31日付ブルームバーグ)。基金の直接の目的は金融機関の救済だが、銀行融資の正常化を通じて不動産企業を支援する狙いがあるのはいうまでもない。
中国政府は急拡大した国内の金融システムを安定させようと必死になっているが、成功するかどうかは定かではない。原油価格の下落傾向が続いているのは中国経済のハードランデイングがすでに始まったことを示唆しているのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)
●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職