その際、安倍氏から「先ほど週刊ダイヤモンドから取材を受けた。ニュークリアシェアリング(核兵器の共有)についてのインタビューを受けたのだが、酷い事実誤認に基づく質問があり、誤報になることを心配している」と相談を受けました。A記者からは、ニュークリアシェアリングについて、「拡大抑止と概念的に同じ」「日本と韓国による拡大抑止」といった発言のほか、あたかも中国と北朝鮮がニュークリアシェアリングしているともとれるような誤認をしたままの質問がなされていたそうです。
安倍氏からA記者の名刺が提示されました。私はA氏とは約2年前からの知り合いで、今年1月には、A氏のインタビューを受けてダイヤモンド誌に掲載されています。昨年12月の段階では朝日新聞を辞職する意向を伝えており、辞職後には同誌への執筆と書籍の出版を相談していた程の仲でした。なお、A氏は外交・安全保障を専門分野とする記者ではなく、ニュークリアシェアリングについての正確な知識がないことも想像できるものでした。
そして、安倍氏からは「明日朝から海外出張するので、ニュークリアシェアリングの部分のファクトチェックをしてもらえるとありがたい」と言われました。安倍氏との面談後、安倍事務所の秘書からも「A記者から 3月13日までに修正をしてほしいといわれた。しかし、明日から代議士が出張に行くので、確認が確約できない、と伝えたが、『紙面に穴を開けるわけにはいかないから掲載を強行する場合もある』と言われ、対応に困っている」と相談されました》
そのうえで峯村氏は「私はひとりのジャーナリストとして、また、ひとりの日本人として、国論を二分するニュークリアシェアリングについて、とんでもない記事が出てしまっては、国民に対する重大な誤報となりますし、国際的にも日本の信用が失墜しかねないことを非常に危惧しました」「また、ジャーナリストにとって誤報を防ぐことが最も重要なことであり、今、現実に誤報を食い止めることができるのは自分しかいない、という使命感も感じました」などと述べ、「A記者に対し、事実確認を徹底するよう助言した」という。
A記者から反発されたが、「私も重大な誤報を回避する使命感をもって、粘り強く説得しました」という。そのうえで、「『全ての顧問を引き受けている』と言ったのも、安倍氏から事実確認を依頼されていることを理解してもらうためでした」と弁明した。
また朝日新聞の処分について、自身が一回も政治部に所属したり政治取材に関わったりしたことはないと主張。「安倍氏に対して取材や報道はもちろん、やりとりをメモ書きにしたこともない」「完全に独立した第三者として専門的知見を頼りにされ助言する関係であった」などと述べ、「政治家の不祥事や批判記事に介入したわけではなく、ジャーナリストとして致命的な誤報を阻止しようとした」と記した。
また懲戒処分が下される前に、朝日新聞社退職後の峯村氏の複数の転職先に対し、“処分を事前通告していた”などと反発。「転職妨害の強い意図を感じ、恐怖にすら思っています」などと批判している。
当編集部がダイヤモンド社総務部に一連の事実関係の確認と社としての見解を求めたところ、「朝日新聞さんの報道の通りです」と述べた上で、山口圭介ダイヤモンド編集長のコメントを以下のように述べた。
「ダイヤモンド編集部が行った安倍晋三氏へのインタビュー記事について、朝日新聞の編集委員から編集権の侵害行為があったのは事実であり、私たちはその介入を明確に拒否しました。メディアは常に権力との距離感を強く意識しなければならず、中立性を欠いた介入があったことは残念でなりません」