しかし現在、日本の自動車産業は成長の頂点を極めて、衰退に向かおうとしている。環境・エネルギー問題への対応に大きく後れを取ってしまっているからだ。
まず、エネルギー問題だ。内燃機関自動車の燃料である石油の供給に赤信号が点灯している。SDGsとそれに沿ったESG投資によって、石油関連への新たな投資にブレーキがかかり、これ以上の油田の開発は不可能であり、石油の供給は減少を続ける。その結果、ガソリン価格が高騰し、内燃機関自動車の維持費は極めて高いものになりつつある。ここにロシアのウクライナ侵攻という暴挙が重なり、ますます石油供給は不安定になり、価格は上昇するだろう。EVシフトが必須である。
日本では、さらにGS(ガソリンスタンド)の減少という問題が内燃機関自動車ユーザーを苦しめる。このままの勢いでGSの減少が続くと、2041年には消滅してしまう。
環境問題は排ガスと二酸化炭素(CO2)排出量である。EUをはじめ、米国でも内燃機関自動車の排ガス規制は強まっている。たとえば2025年から始まるといわれるEUの排ガス規制である「Euro7」は、もはや従来のエンジンでは達成が不可能だ。EUの環境委員会は、自動車はCO2を含めてすべての排ガスをゼロにしろといっているのである。自動車メーカーが打つ手はたったひとつ。生産車のすべてをEVにするしかない。もう、画期的なエンジンだったCVCCのようなエンジン技術の改良では自動車は生き残れない。
次は価格だ。環境・エネルギー問題の解決にはEV化が必須だが、まだ高価である。安くするには1901年に始まった内燃機関自動車のような量産システムの破壊しかない。
その方法には2つある。1つはEVの価格を高騰させている電池の低価格化だ。これは新型電池の登場で数年内に解決されるだろう。2つ目は水平分業システムだ。これも台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)に見るように始まりつつある。このシステムにEVのシンプルな構造が加わることで、内燃機関自動車の7割から5割のコストで生産できるようになる。日本も早急な対応が必須であるが、まだ内燃機関に軸足を置いている。
おそらく数年でEVの生産地の中心は中国になるだろう。デトロイトでも、ドイツでも、ましてやEVシフトに10年も遅れた日本でもなく――。
米国のデトロイトで始まった自動車の量産の歴史は、日本、ドイツに移り、そして今や中国に移ろうとしている。そして、自動車の原動機も、蒸気から電気、内燃機関を経て、再び電気に変わろうとしている。しかも、情報の端末として使い方も大きく変わろうとしている。
そろそろ日本の自動車産業は退役なのだろうか。それとも10年からの遅れを取り戻して、現在のGMのように再び輝きを取り戻せるのだろうか。だが、そのためには大きな決断と痛みが伴うトップの交代が必須だ。
(文=舘内端/自動車評論家)
●舘内端/自動車評論家
1947年、群馬県に生まれる。
日本大学理工学部卒業。
東大宇宙航空研究所勤務の後、レーシングカーの設計に携わる。
現在は、テクノロジーと文化の両面から車を論じることができる自動車評論家として活躍。「ビジネスジャーナル(web)」等、連載多数。
94年に市民団体の日本EVクラブを設立。エコカーの普及を図る。その活動に対して、98年に環境大臣から表彰を受ける。
2009年にミラEV(日本EVクラブ製作)で東京~大阪555.6kmを途中無充電で走行。電気自動車1充電航続距離世界最長記録を達成した(ギネス世界記録認定)。
10年5月、ミラEVにて1充電航続距離1003.184kmを走行(テストコース)、世界記録を更新した(ギネス世界記録認定)。
EVに25年関わった経験を持つ唯一人の自動車評論家。著書『トヨタの危機』宝島社、『すべての自動車人へ』双葉社、『800馬力のエコロジー』ソニー・マガジンズ
23年度から山形の「電動モビリティシステム専門職大学」(新設予定)の准教授として就任予定。