外国人投資家の中国経済に対する見方が厳しくなっていることを受け、中国政府は信頼を取り戻すための政策を講じているが、ロシアが2月24日にウクライナに侵攻したことで思わぬ逆風が吹いている。世界の投資家は中国の資産をめぐる政治リスクにも敏感になっている。西側諸国がロシアに対して厳しい経済制裁を発動したことで、ロシアの資産が実質的に無価値となり、多くの投資家が痛手を被ったことが関係している。
米国政府は「中国が米国の制裁措置を破っていることを示唆する証拠はない」としているが、習近平国家主席が2月4日に北京冬季五輪の開催に合わせてロシアのプーチン大統領と対面で会談し、強い結束を強調したことが仇となっている。投資家は「バイデン政権が中国にペナルテイーを科すのではないか」との不安を払拭することができないのだ。
外国人投資家の2月の中国国債の保有額は過去最大の減少を記録した。ユーロとドルで保有する外貨準備を凍結されたロシア中央銀行が、保有する中国国債を売却して資金を調達するとの観測が出たからだ。3月に入ると、外国の機関投資家による中国の人民元建て債券の保有残高も3年ぶりに減少に転じた(3月18日付東洋経済オンライン)。
米国と欧州連合(EU)による対ロシア制裁が何らかのかたちで中国に波及する可能性などが嫌気され、年初来の3カ月間で売却された中国株は過去最高の60億ドルに上る。国際金融協会(IIF)によれば、ロシアのウクライナ侵攻以来、他の新興国市場への資本流入が続いているのにもかかわらず、中国から投資マネーが前例のない規模で引き揚げられているという。マネーの大量流出が続けば、中国の不動産バブル崩壊は時間の問題だ。ロシアのウクライナ侵攻のせいで中国経済のハードランドシナリオはますます現実味を帯びてきているのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)
●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職