ドイツのニーダーザクセン州政府は25日、『公共の場での「Z」記号の使用または普及に関するニーダーザクセン州警察への内務省の法令』と題するプレスリリースを公表した。「ロシア軍の侵攻やロシアのプーチン大統領を支持する意図」のデモや集会などで「Z」マークの衣服や旗などの使用を規制する方針という。“ネオナチ”や“移民・難民排斥運動”を展開する極右勢力への規制が進むドイツ国内では、同様の措置が広がる可能性がある。
ウクライナに侵攻したロシア軍の戦車や装甲車、兵士の軍服には「Z」マークが付けられていることが戦争報道で広く知られている。またSNSサービスのTelegram上などでプーチン大統領支持派のロシア人コミュニティーのメンバーが「Z」マークをあしらった服を着て、戦争支持やプーチン支持を呼びかける動画や写真を次々に公開している。
なお「Z」が何を意味するのかについて、プーチン大統領もロシア政府も公的な説明をしていない。各国情報当局者や外交、ロシア政治の専門家らの間でさまざまな意見が出されている。また西側諸国の一部メディア関係者は、ナチスドイツの意匠として使われたハーケンクロイツ(swastika・スワティカ)をもじって「Zwastika」と呼び始めている。
同州のプレスリリースによると、同州内でも、ウクライナに対するロシアの戦争への支持を表明するために建物、車、または衣類に「Z」マークを描く行為が確認されているという。
同州警察は、デモで「Z」を公的に使用したり、公に普及させたりすることが「刑法第140条第2項に基づく刑事犯罪を構成する可能性がある」と説明。同法では侵略戦争を公認していると理解される行動、公の平和を乱すことを禁じており、(壁や物などにペンキやスプレーで『Z』を描くなどした場合)には物的損害が出ることも指摘している。
そのうえで、「州警察は、『Z』の提示がウクライナ戦争と犯罪的に関連しているかどうかを確認するために各事件を注意深くチェックし、合理的な疑いがある場合は加害者を起訴する」とした。
ニーダーザクセン州の内務・スポーツ大臣のボリス・ピストリウス氏は「プーチン軍によるウクライナへの攻撃は、ヨーロッパ中部の民主主義国の平和な人口に対する野蛮な行為です。『Z』は、国際法に違反するロシア軍の行為を表します」と重ねて説明。「そのため、本日、ニーダーザクセン州の警察に、この『Z』記号を使用してロシアのプーチン大統領のウクライナに対する侵略戦争の承認を公に表明する人々は、刑事上の結果を予期しなければならないことを通知しました」とコメントした。
ドイツ国籍を持ち東京の外資系金融でシステムエンジニアを勤める男性は今回のニュースに関し、次のように語った。
「事態が混沌とし過ぎていて困惑しています。仮にプーチン大統領が主張したように、極右主義者がウクライナにいたとしても、国境を越えて戦車で都市を蹂躙し、一般住民を無差別に爆撃していいことにはなりません。ロシア軍によるウクライナでの蛮行は容認できません。またプーチン支持派がよく掲げる、『米国と有志連合のイラクやアフガニスタン攻撃は容認したのに、ロシアだけ批判するのは西側のダブルスタンダードだ』との主張もまったく同意できません。どちらも『武力に頼る』ことは同じ、間違っていると思います。各国が間違いに間違えを重ね、暴力的な歴史がこのまま形作られていくことを誰も望んでいないでしょう。
難民への忌避感などから、『Z』マークをつけて運動するドイツ国民がいることに暗い気持ちになります。確かにウクライナへの連帯を示すため、ドイツ国内で『Z』マークを取り締まることにも意味があるのかもしれません。一方で、こうした規制を前面に打ち出して呼び掛けると、『ドラゴンボールZ』のロゴが描かれているTシャツを着ているだけで、極右扱いを受けるような極端なムーブメントが起きるのではないかと少し心配です。
それより先に取り組むべきことがあるのではないでしょうか。ウクライナ人が本当に望む地方政府による支援は、差別主義者や犯罪者集団が行う直接的な人権侵害から、強力かつ具体的に難民の安全を守り、衣食住を確保することだと思います」
(文=Business Journal編集部)