手元資金1500億円、ミクシィの知られざる正体…mixi衰退から10年で変貌

 また、この頃からずっとSNSとスマホの相性の良さは指摘されていたのですが、mixiはスマホに対応するのがとにかく遅かった。最終的にスマホに対応したのはみんなが他のSNSに乗り換え終わった2010年くらいだったと思います。その頃、私も一度アプリをインストールして覗いてみたのですが、すでにユーザーはほとんどいなくなっていました。

 mixiは滑り出しが好調だったこともあってか、自社の強みは自覚できていました。一方で、ユーザーがどこに価値を見出しているかを正しく理解できないまま、時代の変化を汲み取って方向性を整えることができなかったんだと思います。ですが、人と交流したいという欲求がSNSで叶うのだと、日本人に最初にわからせてくれた存在ではあったでしょうね」

圧倒的に収益が高いスマホゲーム、モンストで大成功

 そうしてmixiは衰退していった。その影響でミクシィは、一時は赤字になるほど業績が落ち込むが、13年にモンストをリリース。すぐに人気ゲームの仲間入りを果たし、業績も上向きになる。

「実はSNSのmixiは最盛期でも収益性が低いことで有名だったんです。基本的に広告でしか収益がなく、その広告もターゲティングの精度が甘かったためか、単価も上げられませんでした。ですからミクシィが運営する求人サイト『FIND JOB!』で出た利益を、すべてmixiで“溶かして”いるらしいなんて噂もあったほど。

 一方で、スマホゲームのビジネスは課金してくれるユーザーがいるから、SNSを運営するよりも圧倒的に収益が高いのです。そのため、SNSを運営していた会社がゲームの事業に参入するのはよくあるパターンといえるでしょう。グリーやディー・エヌ・エー、特にグリーは今や完全にゲーム会社です。グリーに関しては一時期、任天堂を超えるか? といわれるほどの勢いがあったくらい、スマホゲームの事業は儲かるんです」(高橋氏)

 だが、ミクシィは考えなしにスマホゲームのビジネスに参入したというわけでもなさそうだ。

「モンストは単なるバトルゲームではなく、最大4人が端末を持ちよって遊べるゲームです。ミクシィはネットよりも影響力の大きい、リアルな口コミでゲームを伝えてくれる人を増やそうと、対面でコミュニケーションができるゲームを考えたようです。同社の企業ミッションは“for communication”なので、その指針にも則っていますよね」(高橋氏)

 スマホゲームの事業は課金ユーザー一人当たりの単価が高い。そのため、ミクシィの収益はモンストよりユーザーが多かったmixiを主力としていた頃よりも、今のほうが圧倒的に多いのだとか。その一方で、モンストはリリースされてすでに10年近くが経とうとしている。

「今のミクシィにとっての一番の不安要素は、モンストの後釜がないことでしょう。モンストと同じくコミュニケーションしながら楽しめるサービスとして、公営競技やスポーツに関する事業も展開していますが、まだ収益源として大きくは成長していないように見えます。

 20年に東証一部に上場していることからも大企業の仲間入りを果たして、さらに大きくなろうとしているのだと感じられますが、やはり模索はしていると思います。今、手元資金が1500億円ほどあるそうですが、その生かし方もまだ定まっていないみたいですね。早く次の一手を打たないと株主たちにも見限られてしまいますし、企業としての成長も頭打ちになってしまう。自社のビジネスの今後を考えないといけない状況でしょう。

 ただ、日本のSNSを開拓したという存在意義はとても大きなものだと思います。特に、私も含め、元mixiユーザーのなかには、今でも当時の繋がりが生きていて、感謝しているという人も少なくないです。応援している人も多いと思いますので、ぜひ不死鳥のように復活して、さすが! と言わせてほしいですね」

 ミクシィは、これからどんな手を使って人々のコミュニケーションを彩ってくれるのだろうか。その動向に注目したい。

(取材・文=福永全体/A4studio)

●A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。