2020年3月以降、FRBは超低金利と潤沢な流動性の供給と維持を優先した。それによってFRBはコロナ禍での景気回復を下支えしようとした。主要投資家は、“カネ余り”が続くと先行きを楽観した。世界経済のデジタル化の加速を背景に、IT先端企業の成長期待は大きく高まった。スタートアップ企業の企業価値も高まり、世界全体でハイ・ベータ株(成長期待が高い分リスクも高い株)が上昇した。2021年11月に米ナスダック総合指数は史上最高値を更新した。それはSBGの純利益の黒字転換を支えた要素の一つだ。
しかし、昨年11月下旬に、SBGを取り巻く投資環境は変化し始めた。FRBが物価上昇は一時的との認識が誤っていたと認めたのだ。1月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、3月に利上げを開始する考えが明示された。利上げの開始後にバランスシートの縮小も始まる。株価上昇を支えた緩和的な金融政策は急速に変わろうとしている。その懸念から、米国のナスダック市場上場銘柄など成長期待の高い銘柄が売られ始めた。2月3日の米国のメタ(旧フェイスブック)株の急落はそのよい例だ。
今後、SBGはより強い逆風に直面するだろう。1月の米国の消費者物価指数は前年同月比で7.5%、エネルギーと食品を除くコア指数は同6.0%上昇した。いずれも事前予想を上回った。3月に0.5ポイントの利上げが実施され、急速かつ相応の引き上げ幅で追加利上げが進む可能性は高まっている。それと同時に、流動性も吸収される。米国では経済の専門家からFRBは臨時の会合を開いて量的金融緩和(QE)をただちに終了すべきとの指摘が出始めた。それだけ物価上昇圧力は想定よりも強い。FRB以外の中央銀行も利上げに着手している。
世界的に金利は上昇するだろう。その展開が現実のものとなれば、期待先行で上昇した銘柄を中心に世界的に株価は下落する。事業規模が小さく成長期待の高い企業の事業運営体制は急速に不安定化する恐れが増す。また、株価の下落は各国の景気回復ペースを鈍化させ、企業の業績は悪化する。特別買収目的会社(SPAC)との合併を経由したスタートアップ企業の新規株式公開(IPO)も困難になるだろう。
それは、SBG本体、傘下のビジョンファンドなどの利得獲得にマイナスだ。金利上昇によってSBGの資金調達コストも増加するだろう。同社は約14兆円の有利子負債を抱える。一部の借り入れは保有株が担保になっている。株価の下落が鮮明化すれば、SBGの信用リスクは追加的に上昇するだろう。
米国の金融政策以外のリスク要因も多い。中国の先行きはSBGの事業運営にかなりの影響を与える。中国のIT大手アリババ・グループの成長はSBGの投資事業を支える柱に位置づけられる。習政権は民間企業の創業経営者への締め付けを強めている。それは、アリババなどのIT先端企業の事業運営体制を不安定化させるだろう。
また、中国では不動産市況の悪化と、ゼロコロナ対策によって景気の減速が鮮明だ。中国の不動産バブルは崩壊のさなかにある。当面、一段の景気減速は避けられないだろう。SBGが投資してきた中国スタートアップ企業の成長は鈍化する可能性が高い。さらにウクライナ問題などの懸念からエネルギー資源価格が上昇すれば、世界の金融市場と経済にはかなりの打撃があるだろう。感染再拡大の収束が見通しづらいこともSBGのリスク要因だ。
今後、投資環境が急激に変化し、SBGがポートフォリオの中身の見直しを余儀なくされる可能性は排除できない。それが避けられたとしても、SBGにはかなりの取り組みが必要になるだろう。例えば、株価下落リスクの影響を抑えるために、新規投資の金額を小さくする必要性は高まる。SBGが投資先企業の成長を加速させることができるか否かも問われる。先行きの不透明感が高まる中でどのように投資事業による成長を目指すか、SBGの実力が試される。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
●真壁昭夫/法政大学大学院教授
一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。