西武建設は西武鉄道の100%子会社(西武HDから見ると孫会社)で駅舎や西武グループの関連事業の施設の建設や沿線の戸建住宅を手掛けている。21年3月期の売上高は686億円、純利益は24億円。しっかりと黒字を確保しているが、それでも売却の対象となった。
西武建設株は3月31日に譲渡される予定。西武HDは西武建設の株式売却益380億円を特別利益として計上する。22年3月期連結業績予想については最終損益の140億円の赤字予想が西武建設株の売却により90億円の黒字になると業績を上方修正した。
西武HD社長の後藤高志氏は2005年5月、西武鉄道の社長に就いた。06年、持ち株会社西武HDの社長に就任した。西武グループのメインバンク、みずほフィナンシャルグループ(FG)の出身で西武グループの経営再建のために派遣された。
その西武に支援の手を差しのべたのが米投資ファンド、サーベラスだった。06年、1000億円を出資、株式の30%を保有する大株主となった。当初はホテル事業の支援など経営面で協力していたが、再上場のやり方をめぐってズレが違いが生じた。
13年、サーベラスが西武HDに対しTOB(株式公開買い付け)を実施、保有比率は35.45%に高まった。サーベラスはプロ野球球団の売却やローカル線の廃線を求めた。14年、西武HDは再上場を果たす。17年、サーベラスは西武HDの株式をすべて売却して日本から撤退した。
サーベラスの“桎梏”から脱け出した西武HDは2027年をメドに売上高にあたる営業収益を1兆円、営業利益を1500億円に引き上げる目標を掲げた。ホテルを中心に鉄道以外の事業の拡大がエンジン役となるはずだったが、新型コロナの感染拡大で観光レジャー需要が急減速したのが痛かった。
そこで資産売却をテコにコロナ後を見据えることにした。ホテル・レジャー事業を身軽な経営へ転換することにした。手持ち資産を減らし、経営効率を高める。事業会社の売却益で西武HDの黒字化の定着を目指す。31施設の資産売却による利益は、譲渡日の関係もあって22年3月期決算には織り込んでいない。
西武HDはウィズ・コロナ対応の遅れが目立つ、とアナリストから指摘されているが、後藤社長の長期政権の澱みが出ているとの見方もある。「本人が『辞める』と言わない限り、後藤社長体制が続くのではないか」(西武HDの関係者)といった冷めた声も挙がっている。後藤氏がみずほFGの頭取候補だっただけに、「現役のみずほの経営陣も後藤氏の首に鈴をつけられない」(金融担当のアナリスト)という見立てである。
(文=Business Journal編集部)