国内の治安悪化のせいでリビア(日量20万バレル)やイラク(日量50万バレル)の原油生産量が減少しているのも気になるところだ。バイデン政権はイラン核合意の再建協議に積極的になっていたが、ロシアのウクライナ侵攻が暗い影を落としている。合意が成立すれば、日量100万バレル以上のイラン産原油が国際市場に供給されることから、原油価格の押し下げ効果が期待されていたが、合意が近づいていたタイミングで軍事衝突が起き、米国やイランが大きな政治的決断を下すのが難しくなっている。
「原油価格が上がればシェールオイルがすぐに増産される」といわれていたが、米国の原油生産量は日量1160万バレル前後とコロナ禍前の最高値(日量1310万バレル)に遠く及ばない状況が続いている。開発費用を負担した投資家からの配当要求が高まっている昨今、シェール企業は増産に向けた取り組みを行うことが難しくなっているからだ。生産コストの急上昇や労働不足が増産の足かせとなっている。
バイデン政権は発足以来、国内の石油開発を抑制する措置を講じてきたことから、シェール業界からは「原油価格の高騰を抑えるためにバイデン政権が増産要請してきたとしてもこれに応ずるつもりはない」との反発の声も聞こえてくる。
世界の原油需要が急速に回復する一方、原油供給は今後伸び悩む可能性が高い。需要が減少しない限り、価格高騰は続くのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)
●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職