また、授業の時間でなくても学生たちが作品について議論していて、世間の作品や大学のギャラリーに展示してある作品について、“あの作品が素敵だった”とか“自分はこう思った”などと意見を交換しています。日本では遠慮して自分の意見をあまり言わないムードがあるなかで、積極的に問題提起ができるというのも美術大学の学生の強みかもしれませんね」(阿部氏)
作品と向き合うにあたって感覚的な部分だけでなく、ロジカルに考える力、伝える力も鍛えられているからこそ多くの企業から求められるということなのだろう。では、美術大学の学生たちの力は、社会のどのような領域で発揮されているのだろうか。
「就職率に目が行きがちかもしれませんが、専門職、総合職を問わず、大半の学生が大学で学んだ専門的な知識や技術を生かした仕事に就いていることも、本学の特徴です。昔はメーカーのデザイン職に就職する学生がとても多かったのですが、近年は社会的なニーズが多様化してデザインやアートの力が求められる機会も増えたので、学生たちは本当にさまざまな企業に就職しています。それはアート系学科でもデザイン系学科でも同じです。
人気のあるゲーム業界にも学科関係なく多くの学生が就職しています。例えば、任天堂の『スプラトゥーン』のアートディレクターは本学のグラフィックデザイン学科出身者ですし、その他にもキャラクターデザインのなどの領域では、やはりデザイン系学科で学んだ卒業生が活躍していることも多いですね。一方でコナミから発売されている『ウイニングイレブン』シリーズのサッカースタジアムをつくったのは、本学の絵画学科で油画を学んだ卒業生です。単純なCGでは迫力に欠けるというときに、絵画学科出身ならではの描写力が輝くこともあるようです。
また、最近ではコンサルティング会社のアクセンチュア株式会社に就職したり、メーカー就職でもデザインに限らず商品コンセプトの設計や、コンペに上がってくるデザインの選定などディレクションを行うポジションやプランナーなどの総合職に就いたりする卒業生もいます。便利なツールやアプリケーションソフトも増え、表現のクオリティを上げるだけなら練習さえすれば誰でもできるなかで、プラスアルファの価値を創造できる人材として、美術を学んできた方が重宝されているように感じますね」(宮下氏)
最後に、阿部氏は美術大学で学ぶ時間こそが重要であると語ってくれた。
「やはり美術・デザイン好きだという気持ちがベースにある学生ばかりなので、みな誰に言われなくとも授業以外でも作品づくりのヒントを見つけて、試行錯誤しています。そして、だんだんとできることが増えていく過程のなかで、苦しみや喜びを共有していくというのは、学生にとって貴重な時間なのでしょう。美大で過ごした時間は生涯の財産となるはずです」(阿部氏)
新しい技術やサービスが次々と生まれる現代。美術学生たちの持つ力が求められる場面は、さらに増えていくはずだ。
(取材・文=A4studio)
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