官製ゾンビ企業、日の丸液晶メーカー・JDI、悲惨な経営の果てに「中小企業化」

 白山工場の建設費(1700億円)の大半を建設時にアップルに前受け金のかたちで負担してもらっている。同工場は16年末に稼働を始め、スマホ用のパネル換算で月700万枚の生産能力を持つ。アップルが上位機種で有機ELパネルの採用を決めたことから、白山工場の稼働率が低迷。19年7月に生産を一時停止していた。

 JDIは工場の売却で得た資金を前受け金の返済などに充当して財務の負担を減らす。シャープは亀山工場(三重県亀山市)でつくるアップルのiPhone向け液晶パネルの生産を白山工場に集約する。シャープは白山工場の設備をアップルから借りてパネルを生産し、大口顧客であるアップルへの供給を続ける。

 菊岡稔は、いちごアセットからの金融支援をとりまとめ、白山工場を売却。不正会計の発覚後は、社外取締役の権限の強い「指名委員会等設置会社」へ移行するなどガバナンスの体制を見直した。「自分でないとできない仕事は減っている」として、菊岡は20年12月末に退任した。

 社長は空席となり、スコット・キャロン会長がCEOを兼務した。キャロンは米国出身で、筆頭株主のいちごアセットの社長。20年3月にJDIの会長に就任していた。スマホで有機ELパネルの採用が拡大し、JDIの命綱だったスマホ用液晶パネルの需要減が響いた。キャロン新体制は医療用パネルやセンサーなど新規事業を早期に軌道に乗せたい考えだ。

 22年3月期通期の売上高は前期比13%減の2970億円を見込む。半導体不足が緩和し、従来計画を170億円上回る。通期の損益の見通しも初めて公表した。営業損益は131億円の赤字(21年3月期は262億円の赤字)、最終損益は184億円の赤字(同426億円の赤字)となる見込みだ。

 JDIは2月10日、22年3月期の最終損益が84億円の赤字になる見通しだと発表した。従来予想から赤字幅が100億円縮小する。台湾の製造子会社の売却益を計上するためだ。売上高は21年3月期比15%減の2910億円。従来予想を60億円下回る。自動車向けの液晶パネルの出荷量が想定を下回る(売上高、最終損益とも億円以下の切り捨てしているため会社側の公表数字とそれぞれ1億円異なる)。会社側の発表では最終損益の赤字は99億円縮小し、売上高は59億円のショートとなっている。

 再建の主役に躍り出た会長のキャロンが打ち出した再建への第一歩が、資本金を2152億円から1億円に減資して、2881億円の累積損失を一掃することだった。経済産業省が音頭をとって発足した“日の丸液晶メーカー”JDIは、迷走の果てに中小企業として再出発することになった。

 経営陣の責任感の欠如から、「官製企業の悪しき典型と酷評され“ゾンビ”などと揶揄された」(M&Aに詳しいアナリスト)JDIは、14年3月に新規上場して以来、水面下の低空飛行のままだ。一度も配当したこともなく、株価もこのところ2ケタ(100円以下)であり、上場企業の体をなしていない。さらに資本金を1億円に減資して中小企業となる。「上場している意味があるのか」(外資系証券会社のアナリスト)と厳しく問われている。

(文=Business Journal編集部、文中敬称略)

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