また、低成長ケース(ベースラインケース)でも、PB赤字が4兆円台にまで改善しており、歳出削減などの財政・社会保障改革をもう一段進めれば、このケースにおいても2025年度から2030年度の間でPB黒字化が達成できる可能性が出てきているという事実も重要である。
2019年10月に消費税率を8%から10%に引き上げることにより、これまで進めてきた社会保障・税の一体改革はひとまず終了した。しかしながら、2025年には団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となり、医療費・介護費に一層の増加圧力が加わることは確実である。また、直近の中長期試算では、PB黒字化が達成できても、財政赤字は残る予測だ。
コロナ禍のため、財政健全化の目標年度を先送り、あるいは財政再建を中止しようという議論が出てくる理由も分かるが、現在の目標でも現実的には十分に達成可能な領域にいることも念頭に置きながら、慎重な議論が望まれる。
(文=小黒一正/法政大学教授)
●小黒一正/法政大学経済学部教授
法政大学経済学部教授。1974年生まれ。
京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。
1997年 大蔵省(現財務省)入省後、大臣官房文書課法令審査官補、関税局監視課総括補佐、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。会計検査院特別調査職。日本財政学会理事、鹿島平和研究所理事、新時代戦略研究所理事、キャノングローバル戦略研究所主任研究員。専門は公共経済学。