明らかに平成から令和にかけて、「早慶受験地図に変化」が起きているのだ。早稲田は「国際教養学部」が注目を集め、海外留学生数では全大学1位で、田舎っぽさからグローバリズムな雰囲気へ転換している。中国人留学生の間では、WASEDAの人気は日本の大学でトップクラスだという。
「女子学生の比率」も早稲田が慶應を上回っている。昔はマンモス授業で教室にまじめに毎回出席するのは変わり者、というイメージがあったが、今や一変、少人数クラスがスタンダードで、出席率は2002年に45%だったのが2014年は68%にまで上昇した。真面目な校風になったのだ。
早稲田は、平成の時代に理工学部を基幹・創造・先進の3学部に、文学部を文・文化構想の2学部に再編した。それらの理解が高校の教員にも行き届きつつあり、進路指導にも反映されている。
2021年入試の政経学部の数学1A(大学入学共通テスト)の必須化など、入学後の大学教育への思いが表面化してきたことも、イメージチェンジになったようだ。ただ、政経学部も合格者に難関国立大との併願者が増加することを予測して、補欠合格制度を導入するなど苦労はしているようだ。
平成の慶應は、確かに私学では応援歌「陸の王者」とも言うべき快進撃であった。1990年代に入ると、神奈川県にSFC(湘南藤沢キャンパス)の総合政策学部や環境情報学部を開設し、私大で初めてAO入試を導入した。また、授業も教室での講義形式でなく、討論などを取り入れたアクティブラーニングを展開して、全国的に注目を集めた。初期の卒業生には、ITの先進企業で、ベンチャーの役割を果たした人材が目立ち、山口絵理子さんのような社会的起業家(本人は戸惑いを感じているというが……)も輩出した。
三田キャンパスの学部も、低成長時代に強力な同窓会三田会を利用した就活で、その名を高めた。その根底には、崇高な真理の探究よりも「実学重視」の校風があった。
司法試験合格の実績で有名な法学部は、今や慶應文系の最難関である。1970年代は最も入りやすい学部であったが、法科大学院設立時に徹底した現実重視で成功した。
法科大学院制度のスタート時の設立理念は、法曹人材の多様性を実現するため法学部以外の学部出身でも受講できる3年制の未修コースを設け、法学部対象の2年制の既修コ―スと並立したのだ。早稲田などはその理念に沿って未修コースを主体としたが、慶應は既修コースを主体にして、他の大学の法学部卒業生を積極的に受け入れた。
その結果、早稲田法学部卒業で慶應法科大学院の受験生が司法試験に合格すれば慶應の合格者にカウントされ、実績となっていった。まさに実学の校風が生かした例であろう。
公認会計士の合格者数でも連続トップの実績を誇っているが、その裏には公認会計士三田会の強力なサポートがある。もちろん他の私大でもそうした実績作りのサポート態勢が充実しつつあるが、慶應では三田会という自発的集団が中核になっている点が強い。
さらには、最近、本連載でも紹介したが、山形県鶴岡市の慶應大学先端生命科学研究所の相次ぐベンチャー企業の輩出など、新しい動きが注目されている。そのエネルギーが他の学部にも及べば、令和にも慶應の新たな栄光の歴史を刻むことになるだろう。
(文=木村誠/大学教育ジャーナリスト)
●木村誠(きむら・まこと)
早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『「地方国立大学」の時代?2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)。他に『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。