ITジャーナリストの三上洋氏は次のように今回の事例を解説する。
「一般的に、お金を払って宣伝をしているのにもかかわらず、それを隠して投稿をしていることをステルスマーケティングと呼びます。今回の件では、Twitterのインフルエンサーに出来高払いでお金を払って投稿させ、誘導しています。
その目的が、アプリのダウンロード数を伸ばすためのものだったのか、Tiktokに投稿される動画全体のビュー数を上げたいがためだったのか、どちらかはわかりません。いずれにしても、TikTok側の依頼と金銭によって、インフルエンサーが投稿しているのでステマの典型例だと思います。
異例なのは、プラットフォーマーが別の社のプラットフォームに対しステマをしている点です。本来であれば、TikTokが自社のプラットフォームでステマを防止する立場だからです。
一方、TikTokなどの動画系サービス、ライブ配信・投稿アプリの世界では、お金を払って投稿させるという文化があります。
例えば、新規のライブ配信アプリの場合は、有名配信者を連れてきて配信するということも行われています。インフルエンサー事務所が、“新規のライブ配信サービスに対して所属インフルエンサーを紹介すること”がビジネスにもなっています。TikTok自体も、デリバリー業界やゲームアプリの紹介キャンペーンに近いこともやっています。“友人にアプリを紹介して、その人が加入すると報酬がもらえる”というものです。
つまり“動画を投稿させること”“アプリを紹介させること”になんらかの報酬が発生するというのが、動画やゲームアプリの世界だと比較的普通に行われているのです。
こうした行為自体はステマではありませんが、恒常的にそうした報酬が発生しているため、TikTok側は今回の事例でも深く考えていなかった可能性があります。
2012年以降、ステマは何度も繰り返し問題になってきました。WOMマーケティング協議会のガイドラインで求めている“PR表記”をつけずに投稿活動するインフルエンサーやライブ配信者も多いので、グレーゾーンはあると思います。こうした問題が何度も取り沙汰されると、今後、消費者庁なり、総務省なりが“ガイドラインを作りましょう”ということになり得ると思います
個人的には、この案件は法規制にはなじまないのではないか、と思っています。というのも、どこからがステマなのかの区分けが非常に難しいからです。例えば、“試供品をもらったり、商品を買ったりしてレポートすることはステマなのか”など、わからない部分が多いです。
一律に国が規制をかけると“魔女狩り”になってしまう恐れもあります。既存のガイドラインではない、あらたな業界内の指針づくりが求められていると思います。有力SNS運営企業やIT事業者が積極的に議論に参加し、ネットの実情に沿った“具体的なライン”を入れたステマ防止指針を作るべきではないでしょうか」
(文・構成=編集部、協力=三上洋/ITジャーナリスト)