企業経営者や事業責任者が、この事例から学べることは何だろうか。アプリの作成を急いだり、売り場にIoTを導入することももちろん重要だが、アプリやIoTデバイスは手法にすぎない。
この事例から学べることは、「ユーザー思いの姿勢」の着想と「収益を上げる仕組みづくり」の2点だ。Coke ONは単に売るためだけ、告知するだけのアプリではなく、健康志向のユーザーのためになる歩数計としての価値を提供していることが第一だ。次に、その提供価値を来店促進の仕組みに入れ込んでいること。価格訴求で来店させるのではなく、ユーザーに自分から行きたいと思わせることで、売るのではなく売れる仕組みになっている点だ。
一見、IoTを駆使した画期的な仕組みに見える。もちろんそうだが、健康志向の高まりという外部環境を分析し、自動販売機という自社最大の強みを活かし、ターゲット層を明確に設定し、メディアを組み合わせるというマーケティングの原理原則に則った、理にかなった売れる仕組みなのだ。
(文=理央 周/マーケティングアイズ代表取締役、売れる仕組み研究所所長)
●理央 周(りおう めぐる、本名:児玉 洋典)
マーケティング・コンサルタント、企業研修講師。1962年生まれ。静岡大学人文学部卒。フィリップモリスなどを経て、インディアナ大学経営大学院にてMBAを取得。アマゾンジャパン株式会社、マスターカードなどで、マーケティング・マネージャーを歴任。2010年に起業。収益を好転させる中堅企業向けコンサルティングと、従業員をお客様目線に変える社員研修、経営講座を提供。2013年より関西学院大学経営戦略研究科教授として教鞭をとる。著書は『「なぜか売れる」の公式』(日本経済新聞出版社)、『仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』(日本実業出版社)など。商工会議所や経営者会での講演、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌への出演、寄稿も多数。