親会社と子会社がともに上場する親子上場の解消の機運が高まっており、2022年はさらに加速しそうだ。
21年11月以降の1カ月ほどの間に、凸版印刷がトッパン・フォームズ(東証1部、凸版が58.6%出資)を、商船三井がダイビル(東証1部、商船三井が51.7%出資)と宇徳(東証一部、商船三井が66.5%出資)を、内田洋行はウチダエスコ(ジャスダック<JQ>上場、内田洋行が34.4%出資)を完全子会社にすると発表。TOB(株式公開買い付け)される側の株価が急騰した。
TOBは高値売り抜けを狙う投資家には絶好のチャンスだ。商船三井によるダイビルのTOBに対しては、英国のアクティビスト(物言う株主)、アセット・バリュー・インベスターズが「2200円としたTOB価格が低すぎるとして3000円以上に引き上げること」を要求する、おまけまでついた。ダイビルは大都市圏に優良物件を多数保有している不動産会社である。
このほかブラザー工業がニッセイ(東証2部、ブラザー工業が57.1%出資)を完全子会社にすることを11月上旬に発表済みだ。12月10日には穴吹興産がクリエアナブキ(JQ上場、穴吹興産の出資比率57.2%)にTOBを実施して完全子会社化すると発表した。
12月10日はメジャーSQ(特別清算指数)の算出日でもあり日経平均株価は2万8437.77円(前日比278.70円安)と続落したが、信越ポリマーと日水製薬の2銘柄が東証1部で年初来高値をつけた。信越ポリマーは信越化学工業が52.0%出資しており、日水製薬は日本水産が53.6%保有している。旭化成が29.4%出資している旭有機材も年初来高値となった。どの銘柄も次の“TOB予備軍”との思惑で買われた。
親子上場の解消が進む理由の一つが、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)だ。上場子会社は親会社と一般株主との間に利益相反が生じることが多い。身内の利益になると考えた親会社による意思決定が、必ずしも他の株主の利益につながるとは限らないからだ。企業統治指針が改訂され、上場子会社に対して少数株主の利益を保護するためのガバナンス体制の確立を求めた。
もう一つが22年4月に控える東証の市場再編だ。最上位のプライムの市場は流通株式比率が35%以上となっている。5割以上の株式を親会社が保有している上場子会社にとってハードルが極めて高い。みずほ証券エクイティ調査部が「22年は親子上場の見直しに期待」と題するリポートを発行。上場子会社を20社リストアップしたが、信越ポリマー、日水製薬、ニッセイも入っている。
三井E&Sホールディングスは21年11月に、上場子会社の三井海洋開発の株式を1%売却した。プライム市場を目指す三井海洋の流通株式比率を上げるためで、保有比率は50.1%から49.1%に下がり、子会社から持ち分法適用会社に変わった。親会社の保有比率が50%を超える上場子会社にとって、親子上場解消は待ったなしの状況なのだ。
三井金属エンジニアリングは三井金属鉱業が63.3%確保している。蝶理は東レが51.2%を持っている。三井金属エンジニアリングも蝶理も旧村上ファンドの流れを引くファンドに買われてきた。物言う株主の動きからも目を離せない。
キヤノンマーケティングジャパンはキヤノンが57.7%保有している。キヤノンはこれまでにもキヤノン販売、キヤノンマシナリー、キヤノンファインテックなどの上場子会社を完全子会社にしている。22年4月に社名を住友ファーマに変更する大日本住友製薬は住友化学が51.6%、SCSKは住友商事が50.5%、鳥居薬品は日本たばこ産業(JT)が53.4%を握っている。親子上場は過去5年間で2割強減った。大半が親会社による完全子会社化だ。
日本郵政の戦略子会社と位置づけられている、ゆうちょ銀行、ビックカメラが傘下に収めたコジマやセメダイン(東証2部、カネカの子会社)といった、一般に知名度の高い上場企業の行方にも関心が集まる。
(文=編集部)