年末年始恒例の有名テレビ番組といえば『輝く!レコード大賞』(TBS)や『紅白歌合戦』(NHK)が有名だ。しかし近年、インターネット上でじわじわと注目度を高めている番組がある。
『埼玉政財界人チャリティ歌謡祭』(テレビ埼玉)だ。ネット上ではその“カオス”な番組内容から“埼玉の奇祭”と称され、年々注目を集めている同番組。今年で30回の節目を迎え、1月1日午後7時から午後9時半というゴールデンタイムで放送された。今年はどんな内容だったのか。
歌謡祭には大野元裕知事をはじめ、県内自治体の首長、県会議員ら県政関係者や財界関係者が出演。それぞれが歌を披露する、俗にいう“カラオケ番組”だ。ポイントは出演者の歌のクオリティーが高くない(例外もある)ところだ。音程を外したり、リズムがおかしかったりすることが多々あることが人気のひとつであるらしい。
また出演者の歌以上に注目が高いのが、各企業社員、自治体職員、地域の児童・生徒らで構成されるバックダンサーや、会場で応援する職員、社員たちの表情だ。“顔は笑っているけれど、目は死んでいる”などと指摘され、“宮仕えの悲哀”が垣間見える部分に多くの視聴者の同情が集まっているようだ。昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で過去の総集編を放送。歌謡祭自体は開かれなかったため、今年は2年ぶりの開催となった。
さて今年の同番組も番組冒頭は出演者や関係者がテレ玉エントランスに設置された、埼玉県文化振興基金の募金箱に寄付金を入れるシーンから始まった。
例年、大宮ソニックシティで開かれていた歌謡祭は、やはりコロナの影響でテレ玉のスタジオでの開催となり、無観客。それでもトップバッターの東京ガス埼玉支社長の清水淳氏による『TOMORROW』(岡本真夜)を皮切りに、サイサン(さいたま市)の川本武彦社長、清水園(同市)の清水志摩子社長ら埼玉の政財界のトップ10人以上が次々にマイクを握った。
埼玉県議会前議長の田村琢実氏が「(コロナ禍で)中止になって(歌謡祭出演から)逃げられたなぁ、と思ったんですが…」などとこぼす一方、レストランチェーン馬車道の名誉会長の木村徳治氏が『二人の世界』(石原裕次郎)を熱唱した。しかし、ここでもコロナの影響か、例年、木村会長と共演していたバックダンサーが1人もおらず、Twitter上で驚きの声が上がった。
ちなみに事前のセットリスト上で明らかにされ、注目を集めていた埼玉りそな銀行社長の福岡聡氏の演目『カイト』(嵐)では、福岡社長の母校の県立不動岡高校の合唱部の女子生徒がメーンで歌うという”奇策”が打ち出され、大きな反響を呼んだ。
Twitter上では「これは歴史的に綺麗なステージなのでは?」「素晴らしい合唱だが、埼玉りそな銀社長…これは逃げだぞ…」などと、“奇祭のしきたり”に厳しい埼玉県民に動揺が走っていた。
最後は大野元裕知事が危機管理防災部長と県民生活部長を伴ってウルフルズの『明日があるさ』(ジョージアで行きましょう編)を熱唱。コロナ感染者やワクチン接種業務に追われる県内医療従事者の姿をインサートしつつ、「医療従事者の皆様ありがとう」と締めくくった。
なお1日午後10時、日本国内のTwitter上で「#埼玉政財界人チャリティ歌謡祭」は3万91件ツイートされトレンド入りした。
昭和・平成時代、多くの地方ローカル局がこうした番組を制作していたが、いずれも思うように視聴率が取れず姿を消していった。なぜ首都圏の一角を成す埼玉で、こうした番組がいまだに注目を集め、今なお続いているのだろうか。東北地方の地方局で勤務経験のあるキー局社員は次のように語った。
「キー局制作のカラオケ番組は、歌の上手い芸能人をキャスティングし、歌そのものを楽しんでもらうことが番組の企画主意です。しかし、テレ玉さんのこの番組は違います。出演者の歌はむしろうまくないほうが面白い。巷の正月の飲み会の延長線上にこの番組の存在があることこそ番組の強みなのでしょう。
一方で全国区の財界人が県内在住者というのは、他の地方と違い埼玉の売りなのだと思います。多くの人が知っているような有名な経営者や知事が地上波で、面白いことをやっているということはありそうでない。埼玉という土地の面白さを伝える良い番組だと思います。
しかも番組自体のクオリティーが低いのかといったらそうではない。元NHKの堀尾正明アナウンサーの見事な仕切りと出演者への当意即妙なツッコミをはじめ、舞台や番組構成などしっかり作り込んであるので、安っぽくない仕上がりになっていると思います」
『埼玉政財界人チャリティ歌謡祭』の再放送はテレ玉で1月9日午後7時からだ。
(文=編集部)