半導体ビジネスは、一つの企業が設計から製造までを一貫して引き受けるのではなく、工程ごとに得意な企業が、得意な分野に特化する水平分業が進められてきた。設計・開発は米国が、製造装置の生産は日本が、そして、半導体そのものの生産は台湾の企業がそれぞれ分業することで、製品を安く提供するグローバルサプライチェーンが出来上がった。
中国が5兆円を投じて半導体王国になって、2025年までに半導体の自給率を高める計画を打ち出した。これに危機感を募らせた米国は5兆円を投じて国内生産を強化するとした。米インテル、台湾のTSMC、韓国のサムスン電子が米国に新工場の建設を決定、あるいは建設を検討している。日立製作所グループの日立ハイテクも半導体の技術開発拠点を米国に作る計画を発表した。こうした動きが強まれば日本が強みを持つ半導体の製造装置や素材を担う企業が海外に移転し、国内が空洞化する恐れが出てきた。
そこで経産省は、国内で半導体を生産する計画を打ち出した。半導体の受託生産で世界最大の台湾のTSMCを誘致することにしたのである。1990年には半導体企業の売上高トップ10にNEC、東芝、日立製作所、富士通、三菱電機、松下電器産業(現・パナソニック)の6社が名前を連ねていた。日本は半導体王国だったのだ。ところが、2020年にはトップ10から日本企業の名前は消えた。
半導体産業は巨額の設備投資が必要になる。最先端工場では1棟1兆円規模に膨らむ。日本企業はオーナー経営者らが大型投資を即決する韓国・台湾勢や、国から巨額補助金を受ける中国メーカーとの投資競争に敗れた。日本のサラリーマン経営者は、大きなリスクが伴う巨額投資に躊躇しがちになるからだ。
半導体製造装置を除くと、日本の半導体メーカーで一定の生産能力をもつのは、メモリー大手のキオクシアホールディングス、画像センサーのソニーグループ、自動車向けマイコンのルネサスエレクトロニクスぐらいだ。
巨額の補助金をエサに、やっと誘致にこぎつけたTSMCが新工場を作っても、日本がかつてのような半導体王国に復活するのは容易ではない。また、TSMCは世界市場を常に視野に入れており、補助金の縛りがきくのは最初の数年間とみられている。「TSMC熊本工場は、日本企業の工場とは考えないほうがいい」(半導体企業首脳)といった醒めた見方もある。
(文=編集部)