加えて、全国チェーンのコンビニだからこそ持つ圧倒的なバイイングパワーという武器も、PB展開の可能性を広げた要因のひとつだ。
「ファミマは国内だけで1万6641の店舗があります(2021年9月30日時点)。それだけの販売チャネルがあれば、大量生産が可能になる。また、商品を製造しているのはベトナムや中国の協力工場ですが、ユニクロやGUといったファストファッションブランドよりも商品のバリエーションが少なく、単品の商品においては、定期的に大量受注できるコンビニの衣料品のほうが仕事を受けやすいという状況だったと思われます」(同)
このような大量生産・大量販売の体制が確立すると、品質だけでなく価格帯の面でも、ファストファッションブランドとさほど差がない商品を調達できるようになる。
男性用肌着を例に取ると、ファミマ・コンビニエンスウェアの「ボクサーパンツ 前開き」は649円(税込み、以下同)。ユニクロの「スーピマコットンボクサーブリーフ(前開き)」は590円。若干の価格差はあるが、ファミマは世界的ファストファッションブランドにコストパフォーマンスでも肉薄していることがわかる。
ファミマが自社の衣料品を「緊急用の間に合わせ」から「日常使い」できる商品に変えようとしている背景には、コンビニ業界全体に対するニーズの変化も関係している。
「2011年の東日本大震災を機に、コンビニが今まで以上に“生活のインフラ”として認識されるようになりました。それによって、今まで主力だった食品に限らず、より広いカテゴリーにおいて、便利で安くて日常使いできる商品を充実させる動きが見られます。ファミマのコンビニエンスウェアの立ち上げも、コンビニ衣料品がカジュアルな日常使いにシフトし始めた動きの表れといえるでしょう」(同)
さらに、新型コロナウイルスの流行がこの傾向に拍車をかけ、コンビニ商品の拡充と質の向上がさらに進んでいるという。
「テレワークの普及や外出自粛で人々が遠出しなくなり、住宅地にあるコンビニ店舗の売り上げが拡大しました。この傾向はこれからも続きそうなので、今後はわざわざ遠くのデパートや商店街に行かずとも、近所のコンビニで質のいい食べ物や日用品、衣料品が揃えられるようになっていくはずです」(同)
衣料品のPBを立ち上げて注目を集めるファミマだが、セブン-イレブンやローソンといった他の大手コンビニチェーンは今のところ静観しているように見える。しかし、渡辺氏は「今後、コンビニの衣料品PBが増える可能性は高い」と予想する。
「ローソンの親会社の三菱商事は繊維事業部を有しており、セブン-イレブンの親会社であるセブン&アイ・ホールディングスも衣料品には強い。いずれも自社で衣料品ブランドを展開する力は十分にあるので、今後はファミマの動きに追随する可能性はあると思います」(同)
より質が高く、普段使いできるクオリティの衣料品が広がれば、これからは「服を買うためにコンビニに行く」ことが当たり前になるかもしれない。
(文=田中慧/清談社)