山口フィナンシャルグループ(FG、山口県下関市、椋梨敬介社長兼グループCEO)は12月24日、臨時株主総会を開催し、吉村猛前会長兼グループCEOの取締役解任を求める。10月の臨時取締役会で、「吉村氏は取締役として資質を有していない」と判断。辞任を求める勧告を決議した。だが、吉村氏が辞任を拒否したため、臨時株主総会を開いて取締役解任を機関決定する。
吉村氏に代わる取締役には曽我徳将専務執行役員を就ける方針で、曽我氏の選任議案も提出する。吉村氏が消費者金融大手アイフルと進めていた新銀行設立構想は「当社のビジネスモデルと整合しない」として、「検討を中止する」と発表している。山口FGは山口銀行(山口県下関市)、もみじ銀行(広島県広島市)、北九州銀行(福岡県北九州市)を傘下に持つ金融グループ。3行を合算した預金量(21年3月期)は10兆115億円で地銀上位である。
新銀行設立の進め方をめぐって「社内の合意を得ないまま、独断専行した」と批判され、会長兼グループCEOを解任された吉村氏は11月29日、東京都内で記者会見を開き、「意見の聴取もなく、問答無用の闇討ち解任であり、違法なクーデターだ」と述べ、中立的な第三者委員会による再調査を求めた。6月25日の株主総会直後の取締役会で解任が決まって以降、吉村氏が公の場で説明するのは初めてだ。
吉村氏はアイフルとの共同出資による新銀行構想を取締役会で議論せず独断で進めたとされる点について、「権限逸脱とされた新銀行構想は、まだ交渉の段階であり、執行権限の範囲内。検討が完了次第、取締役会で議論を行うのは当然。独断専行ではまったくない」と反論。新銀行構想を急いだ理由については、「個人ローンが主力の新銀行は、グループの稼ぐ力を上げるために必要だった」と強調した。
同氏はさらに、「CEOの権限逸脱」と認定した社内調査本部の報告書について、「解任に賛同した取締役が本部長を務めた部署の報告書であり、結論ありきで中立性、公平性を欠いている」と批判。解任については「守旧派の社内取締役が主導したクーデターだ」と断言した。会見には、「社外に機密情報を漏らした」として10月に解任された渡部伸一元執行役員が同席。渡部氏は、「6月の吉村氏の解任に先立ち、一部の取締役が吉村氏の解任を働きかけるメールのやり取りをしていた」と暴露した。「この件を吉村氏や社外に伝えたことが、機密情報の漏洩とされた」と証言し、「公益通報者に準じて取り扱うべきで(解任は)不当だ」とした。吉村氏は「会長などの地位に戻ることが目的ではなく、株主らに正しい情報を伝えたい」とし、「第三者委員会で改めて独断専行と結論づけられた場合には、責任を取りたい」と語った。
臨時株主総会を前に、「不利な情勢」(関係者)と見られている吉村氏が、あえて東京で記者会見を開いたことになる。「窮鼠猫を嚙むだ」(ライバルの地銀グループ首脳)といった冷ややかな見方もある。
今年4月、取締役や幹部行員に届いた一通の内部告発が内紛に火をつけた。吉村氏の個人的なスキャンダルのほか、外資系金融コンサル会社オリバーワイマングループ(東京都千代田区)日本代表パートナーの富樫直記氏との癒着を指摘していた。
富樫氏は日本銀行出身で、そのキャリアを生かし、多くの地銀を顧客にもつコンサルタントだ。かんぽ生命保険で不適切な保険販売が明るみに出た際、「金融商品の販売組織を郵便局という最小単位に切り分け、郵便局の運営管理を地域の金融のプロに任せては」と提言し、一部で関心を集めた。