築30年といえば、マンションとしての基本性能に不安を感じるかもしれませんが、築30年以内なら竣工年は1991年以降ですから、1986年に新耐震基準が施行されてから5年が経過しており、原則的に新耐震基準に基づいて建てられています。大地震がきても倒壊することがないことが大前提ですから、ある程度安心できます。
中古マンションなので、仲介会社を通して買う場合、消費税を除いた価格の「3%+6万円+消費税」の仲介手数料がかかり、リフォームが必要になる物件も少なくないでしょう。それでも、価格が半値以下であれば、新築に比べれば資金計画は格段にラクになるのではないでしょうか。
しかも、築古のマンションには比較的専有面積が広い物件が多いのです。図表3にあるように、~築5年の築浅物件の専有面積の平均は64.2平方メートルに対して、~築15年は69.6平方メートルで、~築20年は72.8平方メートル、~築25年は70.1平方メートルと広くなっています。~築30年だと61.6平方メートルとむしろ築浅物件より狭くなるのですが、築16年から25年以内にターゲットを絞ると平均でも70平方メートル台を確保できます。
築古のマンションに目を向ければ、コロナ禍で求められる、安くて広い家が手に入るわけです。
一戸建てについてもある程度マンションと同じようなことが当てはまります。価格については、一戸建ては土地が付いている分、築年数が長くなっても土地値で歩留りがかかるので、マンションほどに価格が下がるわけではありませんが、それでも安くなる点は変わりません。
図表4の折れ線グラフは、首都圏中古一戸建ての築年数帯別の成約価格を示しています。~築5年の築浅物件は4608万円に対して、~築20年では4000万円を切って3830万円まで下がり、~築30年では2937万円と3000万円を切ります。~築5年以内に比べると6割強の予算で手に入れることができるのです。
しかも、築古になるしたがっての面積の拡大は、マンション以上の効果があります。先の図表3をみていただくと、~築5年の土地面積は110.1平方メートルですが、~築10年では120平方メートル近くに広がり、~築15年と~築20年は130平方メートル台で、~築25年と~築30年は140平方メートル台です。さらに、築30年以上になると、何と160平方メートル台に広がります。
コロナ禍では、庭の役割も重要になっており、庭でバーベキューを楽しんだり、テントなどを出してキャンプ気分を満喫する楽しみ方が注目されていますが、新築の一戸建てや築浅物件ではちょっと難しいかもしれません。でも、築古物件なら十分に楽しめそうです。
もちろん、土地面積が広ければ、それに応じて建物面積も広くなりますから、収納量を増やしたり、広いリビングにしたり、部屋数を増やしたりといったコロナ禍のニーズに対応しやすくなります。
2021年11月現在、コロナ禍は落ち着いたレベルで推移していますが、いつ第6波がやってくるか分かりませんし、新型コロナウイルス感染症が終息しても、次の感染症が発生しないとも限りません。
ですから、今回のコロナ禍における住まい選びの条件の変化は、今後もある程度続いていく可能性があるのではないでしょうか。中古住宅、なかでも安くて広い住まいを手入れることができる築古物件への注目度が高まる可能性がありそうです。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)
●山下和之/住宅ジャーナリスト
1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が2021年5月11日に発売された。