国際ニュース専門週刊誌『ニューズウィーク日本版』(11月9日付)はこう報じた。
<環境団体、気候ネットワークの国際ディレクター、平田仁子理事はこう指摘する。
「日本はいまだ石炭にしがみついている。日本政府はアンモニアや水素を石炭火力と混焼する技術を支援しているが、これは今ある石炭火力発電所の延命措置に他ならない。岸田文雄首相はCOP26で石炭と化石燃料をやめることにコミットしなければ気候変動対策はリードできないと認識すべきだ」>
日本政府は、将来的にCO2の排出の多い石炭火力の割合を減らしていきたいと考えている。だが、11月9日から始まったCOP26の閣僚級会合では日本政府代表団は沈黙を守るだけで、まったく存在感を示せなかったといわれている。
日本の電源構成のうち、石炭火力発電は全体の3割程度。「エネルギー基本計画」では、30年度の時点で発電量の19%を石炭火力で賄うとしており、「完全にゼロにできない」との認識に立っている。
二酸化炭素を出さない太陽光などの再生可能エルギーを導入したいのはやまやまだが、日本は森林が多く、太陽光パネルを設置できる適地が少ない。燃料となる石炭は長期的にみると価格はほかの燃料より安く、安定的な電源と位置づけられる。
石炭は石油のように中東だけに依存しなくてよく、オーストラリアなど近い国から輸入できる。LNG(液化天然ガス)と違って保管も容易で、「エネルギーの安全保障上、重要だ」と経済産業省・資源エネルギー庁は考えている。
発電コストを考えると石炭は他の電源より安い。製造業が多い日本では工場などの電気代がそのままコストにはね返るから、電力の消費量の多い業界を中心に「石炭火力をやめると電気代が上がることへの懸念」は強い。鉄鋼は国内のCO2排出量の4割を占める。鉄を生産するには高炉の中で鉄鉱石に含まれる酸素を炭素と反応させて取り除く必要があり、その際に石炭が使われる。製鉄の過程で大量の二酸化炭素(CO2)が発生することになる。
水素還元製鉄などの新しい技術を研究・開発しているが、脱炭素が大きな目的であり、鋼材の性能向上には直結しないだけに、高炉大手といえども、新技術の研究・開発に巨額資金を投入できないという悩みを抱えているのだ。COP26で日本は強い批判に晒されたが、石炭火力発電所全廃に踏み込めなかった理由は以上の通りである。
ドイツの総選挙では気候変動対策が最大の争点となったが、日本の衆院選では争点にすらならなかった。政権与党は気候変動対策など都合の悪い長期的な課題を封印し、分配という短期的な損得勘定を争点にして勝利した。
日本政府のCOP26での石炭火力発電所問題のあいまいな“処理”方針と総選挙での気候変動対策の封印は、政治の劣化を象徴している。これは同時に、選挙する側 (議員を選ぶ側)の問題意識の欠如ともいえる。
(文=編集部)