ティックトックのバイトダンス発のアプリ「Lemon8」が各世代の女性に人気のワケ

「キュレーションして他から引っ張ってきて楽して情報提供する」から、「自分でコンテンツをつくる」傾向に移ってきた感はありますね。その原動力は、いいねほしさなどの承認欲求も大いにありそうですが。

日影 進んで情報を発信してくれるユーザーは、場を提供している側にしてみたらとてもありがたい存在ですよね。ただ、当然ユーザーも「ここに公開して、いいねをもらいたい!」と思わせる魅力的なサイトやサービスだから、手間暇をかけて自分のコンテンツを投稿するのであり、事業者としては「ユーザーにここで発信したいと思わせる」場づくり、枠組みづくりがより重要になってきますね。

ECは「ストーリー」が重要な時代に

――前編で紹介されたSHEINでも「SHEINで爆買い」動画がSNSで人気であり、そして、Lemon8はコンテンツそのものをユーザーが作成していますよね。「UGC(User Generated Content/一般ユーザーによってつくられたコンテンツ)」の力がますます強まっているな、と思いました。ただ見たり聞いたり買ったりするだけでなく、自分自身も何かを発信したい、というユーザーの欲求があるのでしょうね。

日影 さらに、それは日本だけでなく世界中ですからね。これらは砂粒の一つひとつのようなものであり、集めて数的には大きなものになったとしても、「質的」には、いわゆるそれまでの「マス」的なものになるかといわれれば、そうではないと思います。

 SHEINの爆買い動画は「マス」ではないものですが、それが通じる中においては、購買においても強い影響力があります。さらには、今までは砂粒の一つひとつだったものがアプリを通じて世界中の人とつながることで、マスとはまた異なるタイプの影響力を持つようになったのではないでしょうか。

――その界隈では有名なユーチューバーやインフルエンサーも、ツイッター上の有名人も、知らない人にしてみたら「誰?」ですもんね。一方で、「著名インフルエンサー○○さんが勧めるあの商品」は、その人の熱心なフォロワーにしてみれば、マス的な「遠い」有名人が勧めるよりも響いたりするでしょうしね。

日影 「テレビや新聞が勧めるから買う」から「購買に至るまでの情報から紹介するまでのストーリーを大事にする」という流れが、特に若年層を中心に強まっています。ECにとって、これからはストーリーがキーワードになってくるのではないでしょうか。いいプロダクトだけでは売れない。ユーザーが「のれる」ストーリーをいかに設計できるか、UGCを想起させる仕組みをつくれるかが鍵でしょう。

 たとえば、アーティストが歌をリリースするときも、楽曲の良さだけでなく「歌やダンス動画でマネしてもらえるか」が大きくなってきます。視聴者は純粋な「視聴者」ではなく、もっと自分でやりたいんですよね。特にZ世代以降の、SNSによる評価社会を目の当たりにしてきた若年層は、その影響が強いかもしれません。

 一方で、こういった「コンテンツを自身でつくるほどどっぷりネットにハマっている」ことへの反動もくるのではないのかなとも、個人的には思っています。特にここ1年で、コロナ禍でオンラインでのコミュニケーションがフィーチャーされましたよね。行き過ぎた反動も、どこかでくるのではないのかなと。

 前回、つながらないSNSの「Gravity」を紹介しましたが、つながりすぎることへの反動の一つの表れなのかなと思います。また、これは当社も開発にかかわっているので手前味噌ではありますが、東急株式会社とリリースした「common」は地域を限定したSNSです(現在は二子玉川エリアで提供)。街情報のアプリなのですが、アイコンは決められたパターンから選ぶ形で、いわゆるハンドルネームもありません。投稿にコメントやいいねは付けられるのですが、フォロワーなどの仕組みもありません。

――UGCが過熱する一方で、そういった「RT、いいね、フォロワー数、チャンネル登録者数の数字合戦」にはほとほとうんざりという、相反する潮流が同時に存在しているのはよくわかります。「寂しかったり、自己表現はしたいが、SNSの数字合戦にはうんざり」というニーズに向き合うサービスが、さらに増えていくかもしれませんね。

(構成=石徹白未亜/ライター)