リストラで社員9割減のユニデンHDは、なぜ香港系投資ファンドに全面降伏?

定時株主総会は株主の来場を拒否

 ユニデンHDは6月29日、定時株主総会を開催した。総会への参加は役員のみ。新型コロナウイルスから「生命と健康を守るため」として、総会への株主の来場を拒否した。ネット中継もなく、後日、結果が通知されるだけ。こんな前代未聞の株主総会が上場企業で強行されたのである。

【第2号議案:取締役6名選任の件(会社提案)】

氏名(役職)                  賛成率

・西川健之(社長、総会後代表取締役会長)     50.52%(可決)

・武藤竜弘(CFO、総会後代表取締役社長兼CFO)  82.43%(可決)

・高橋浩平(取締役、ユニデンジャパン社長)    55.10%(可決)

・高橋純也(取締役)               63.48%(可決)

・大里真理子(社外取締役)            85.87%(可決)

・関昌弘(社外取締役)              81.10%(可決)

※関東財務局に提出された臨時報告書による

 リムジャパンは監査役2人の解任を株主提案したが否決された。株主総会では会社提案の人事案が可決されたものの、西川社長の賛成率はかろうじて過半数を上回った。事実上の不信任である。そのため、武藤CFOが代表取締役社長を兼務する人事を決めた。西川氏は代表取締役会長に就いた。

 7月29日、藤本氏が代表を務めるフジファンドが株主総会での取締役選任の決議の取り消しを求めて訴訟を起こした。11月19日に開催される臨時株主総会で、6月の定時株主総会で選任された西川氏と高橋浩平氏、高橋純也氏が退任することを正式に決める。この結果、ユニデンHDの役員から創業家である藤本家の関係者がいなくなる。

不動産業に軸足を移す

 1966年の会社設立から2020年の退任まで、藤本前会長は55年間にわたって経営トップに君臨してきた。藤本氏がどう出るかが、今後のポイントになる。

 藤本氏は66年、米トランシーバー製造会社を買収、ユニ電子産業として立ち上げた。トランシーバーブームが去って経営危機に陥るとコードレス電話に乗り替えて再建したが、スマホの普及でユニデンの牙城であったコードレス電話市場が消滅してしまった。1999年、ユニデンは103億円の最終赤字に転落した。

 ここからリストラを実施。05年に中国工場で1万7000人の従業員によるストライキが発生。07年、中国の現地生産から撤退した。首切りは役員にも及んだ。10年から16年の間に、社長を含めて25人が任期中に退任した。14年の新年会に子会社の社員が出席しなかったことに腹を立てた藤本氏が、子会社の代表を即日解任したうえ、損害賠償訴訟を起こしたが敗訴するという事態も起きた。

 リストラにより、10年3月期末に1万134名いた連結従業員数は、21年3月期末で833人となり、9割以上の社員がユニデンを去ったことになる。98年3月期に1144億円あった連結売上高は、21年3月期に192億円へと激減した。不動産事業に軸足を移した。都心オフィスビルや賃貸マンションの売買で利益を出す経営だ。

 藤本氏の資産管理会社であるフジファンドは、ユニデンHD株の8.05%を保有する筆頭株主だ(21年3月期末)。ユニデンHDに対するTOB(株式公開買い付け)を実施して株式を非公開にしたり、買収先の資産を担保に借金し、その資金を元手に会社を買収するLBOの手法を採るのではないかという観測もある。

 ユニデンHDの不動産関連資産(簿価)は150億円前後で、同社株式の時価総額に匹敵する。投資ファンドと組んでLBOを実施すれば、買収は可能だ。見返りが大きければ、“物言う株主”は藤本氏と手を結ぶ可能性もある。

 藤本氏が「6月の定時株主総会決議は無効だ」とする訴えを取り下げるのか、そしてTOBを仕掛けるのかに、市場関係者は注目している。

(文=編集部)