家庭用ゲーム機といえば、日本企業の独壇場といったイメージがあるが、その元祖的存在は、やはり米国のアタリ社だろう。アタリ社とは、1972年にNolan BushnellとTed Dabneyにより設立された、アーケード・ゲームと家庭用ビデオゲームのパイオニアである。
その後、大きな成功を収めたものの、サードパーティが低品質ゲームソフトを乱発し、消費者からの信用を失ってしまう。一方、任天堂は社内外のソフト開発に強い統制を加える戦略により、数多くの良質なゲームソフトを発売し、国際市場において大きな成功を収めることになる。その後、米国のマイクロソフトから「Xbox」が発売されたが、家庭用ゲーム機市場のメイン・プレイヤーとして、任天堂やソニーといった日本企業は大きな存在感を保っていた。
しかし、昨今、新たなゲーム市場および海外メーカーの台頭により、国際市場における日本企業の存在感は低下している。
シンガポールの放送局であるCNAは、こうした日本のゲーム業界に注目し、「日本のゲーム業界は復活できるか?」という番組を制作している。そのなかで、まず韓国企業が取り上げられている。日本と複雑な過去を持つ韓国では、長らく日本の文化や商品などが大きく制限されていた。結果、韓国ではPCによるオンラインゲームが独自に発展し、海外市場でも影響力を持ち始めた。こうした動きは米国や中国メーカーなどにも波及していく。その後、スマホによるオンラインゲーム市場も拡大してきた。
結果、2020年の世界ゲーム市場において、家庭用ゲームは29%にすぎず、PCゲームが22%、スマホを中心としたモバイルゲームは49%にまで拡大している(角川アスキー総合研究所『グローバルゲームマーケットレポート2020』)。このように拡大するスマホゲームの課金額トップ10(2021年上半期)において、日本企業では9位にサイバーエージェントの『ウマ娘プリティーダービー』が入っているだけで、中国企業4タイトル、米国企業3タイトルに比べて大きく見劣りする結果となっている(米アップアニー調査)。
ゲーム・ビジネスに長く関わってきた日本企業であるならば、その技術や経験を利用し、オンラインゲームにおいても強い影響力を保持することができたのではないかと思われるが、自社の家庭用ゲーム機とのカニバリゼーションなどを恐れ、積極的に取り組まなかった可能性を指摘できる。まさに「イノベーションのジレンマ」が生じていたことになる。
さらに、CNAの番組における日本のゲーム関係者のコメントに「eスポーツにおける多額の賞金が日本では法律に触れる可能性があるため、多くの日本企業において積極的な取り組みが遅れた」といったコメントがあったが、こうした日本の厳しい規制および日本企業の保守的な行動による出遅れや失敗の話は、しばしば耳にする。たとえば、日本メーカーにおける自動運転技術の開発が上手く進展していない要因として、しばしば法整備の遅れが指摘されている。また、ある日本の携帯電話端末メーカーが米国市場での拡販を狙い、現地のキャリア(携帯電話通信事業者)との大型取引がまとまりかけたものの、新興キャリアであった点に腰が引け、その間に韓国メーカーに契約を取られてしまったなどである。
今回のゲームの事例から導出できる知見は、以下の2点である。「イノベーションのジレンマ」は誰もが知る経営のセオリーであるが、とりわけ長らく技術的優位性を保持してきた日本メーカーにとっては陥りやすい罠といえる。
また、企業が若く、創業者が第一線で活躍している場合も少なくない中国企業や米国企業と比較すると、リスクを恐れ、保守的な行動に陥ってしまいがちな日本企業の行動傾向は、悪い意味で際立っているのではないだろうか。
(文=大?孝徳/神奈川大学経営学部国際経営学科教授)