今後エネオスにはかなりの取り組みが求められる。例えば、洋上風力発電には大型の風車を搭載した風力発電設備が必要だ。現時点で、日本には大型の風車を生産できるメーカーがない。風力発電設備の調達コストを低減させるためには、デンマークのベスタスなど海外大手メーカーとの提携が必要になるかもしれない。状況によっては、エネオスが国内外の発電機器や機械メーカーとアライアンスを組んで洋上風力発電装置などの開発や生産に進出することも考えられる。また、洋上風力発電以外にも、多様な再生可能エネルギーを用いた発電手段がある。例えば、潮流・海流を用いた発電分野には国内の電力大手や海運企業が進出し始めた。
言い換えれば、エネオスが脱炭素に対応するために必要なことは、買収などのリスク管理体制を強化しつつ、より多様な再生可能エネルギー利用の選択肢を、できるだけ早いうちに確保することだ。それがビジネスモデルの変革を支える。JREの買収はその一つだ。今後は、太陽光、陸・洋上風力、水力、地熱、バイオマスなどを用いた発電、それを用いた水素の製造、さらには水素利用のコストの高さの原因である液化技術、運搬、タンクの製造などの分野で、エネオスが買収や提携によって事業機会の拡大を目指す展開が考えられる。
別の見方をすると、脱炭素は、企業に根本からの発想の転換を求めている。エネオスは、石油元売り事業を収益の柱として確立し、成長を実現した。しかし、脱炭素などの事業環境の変化に対応するために同社は、過去の成功体験から脱却し、虚心坦懐な姿勢で新しい稼ぎ頭を育成しなければならない。
そのためにエネオスは、石油や天然ガス、金属関連の事業運営の効率性を高めなければならない。そのための方策として、エネオスは石油開発などの分野で二酸化炭素の回収や再利用を可能にする素材、装置の開発により強く取り組むだろう。また、同社を中心に日本の石油元売り業界のさらなる再編が進む展開もあるだろう。
その上で同社は、既存事業から得た資金を、脱炭素関連などの最先端分野によりダイナミックに再配分して成長を実現しようとするだろう。具体的には、再生可能エネルギー分野などでの買収や提携の増加が想定される。それによって同社は社会から必要とされる新しい、より持続性の高いエネルギー供給システムを確立しなければならない。
それに加えて、国際的な競争力向上への取り組みも強化されるだろう。具体的には、化石燃料への依存度が高いアジア新興国などにおける、再生可能エネルギーを用いた発電事業、インフラ整備やメンテナンスなど多様な展開が描ける。現在、アジア新興国では石炭、天然ガスが不足し、中国などで電力不足が顕在化している。その状況は長引く恐れがある。それは、エネオスがアジア新興国の再生可能エネルギー需要を獲得するチャンスになり得る。
ポイントはさらなる成長を支える、新しい発想を取り込み、増やすことだ。JREの買収によってエネオスの経営陣は組織全体に、前例にとらわれずに新しい発想の実現を目指す取組みを強化するよう求めているように見える。エネオスが、どのように既存事業運営の効率性を高め、JRE買収などによって新しい収益源としての再生可能エネルギー事業の成長を目指すか、同社の事業運営への注目は一段と増えるだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
●真壁昭夫/法政大学大学院教授
一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。