中国では豪雨とともに干ばつという異常気象も発生している。水力発電はここ数カ月、十分な供給を行うことができないことも国内の電力不足を深刻化させている。行き過ぎた気候改変の「報い」が下ったのだとすれば自業自得だ。
石炭の話に戻すと、中国の一般炭の先物価格(来年1月分)は連日のように最高値を更新している。年初から約120%上昇した。中国政府は12日、電力の供給量を拡大するため石炭火力発電の電力価格を完全に自由化すると発表した。産業用電力需要者の過半はこれまで安価な価格で契約を結ぶことができたが、今後は市場からの電力購入が求められる。電力値上げを容認するという今回の措置が発表されると「電力会社の石炭需要が高まる」との思惑から、石炭市場の需給逼迫に拍車がかかってしまった。
PPIの急上昇とは対照的に9月の消費者物価指数(CPI)は前年比0.7%と4カ月連続で鈍化した。原材料高の小売価格への波及が小さいのは、政府による価格統制が主な理由だ。原材料高の高騰が目指し始めた6月から価格上昇についての監視を強化している。これに対して企業側は、国内での収益悪化を補うかのように家電など海外向け製品価格の引き上げを進めている。中国の9月の輸出額は前年比28.1%増の3057億ドルと月間の輸出額記録を塗り替えたが、数量はほとんど伸びていない。中国企業が国内のインフレ分を海外製品に全面的に転嫁するのは時間の問題だろう。
世界各地でサプライチェーンが混乱していることも気になるところだ。世界は「中国のインフレ輸出」を警戒すべき時期に来ているのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)
●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職