中国の深刻な電力不足で“潤う”北朝鮮…石炭を密輸出、黄海上で受け渡す巧妙な手口

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北朝鮮の街並み(「Getty Images」より)

 北朝鮮の朝鮮労働党傘下の商社が核兵器開発に関する国連の制裁決議に反して、エネルギー不足で電力供給がひっ迫している中国に石炭を密輸出していることが明らかになった。中朝国境は新型コロナウイルスの感染拡大で昨年1月以降、閉鎖され、交易の9割を占める中国との貿易が途絶えていることから北朝鮮は外貨不足に陥っており、制裁決議違反にもかかわらず、北朝鮮政府が密輸出を奨励しているという。米政府系報道機関「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。

 石炭の密輸出を行っている商社は、金正恩党総書記一族のための裏金作りや外貨稼ぎをしている党39号室傘下の金剛管理局貿易会社(金剛貿易)で、石炭は小型船に積み込まれて、中国の港に行くのではなく、中朝両国が接している黄海上で石炭の受け渡しが行われている。

 北朝鮮側の船は夜間に出発し、船から船への積み降ろしなので、米国の衛星画像による北朝鮮船の監視を回避できる。特に金剛貿易の場合、数十年も前から黄海上で中国に鉱物や水産物を輸出しているので、明るいライトを使わずに船を操作することに長けているという。

 北朝鮮の石炭は安価で高品質であることが知られており、大半が中国の商社によって買い占められている。北朝鮮の石炭は1トン当たり50ドル(約5700円)程度で取引されているが、金剛貿易の船は1隻当たり1000~2000トンを積むことができ、中国が国際市場で石炭を手に入れるために必要な1トン当たり200ドルよりもはるかに安いという。

 北朝鮮の情報筋はRFAに対して、「4、5日に2、3隻の船が出航するので、毎回3000~5000トンの石炭を運んでいると思われる」と証言している。北朝鮮には金剛貿易以外にも、北朝鮮の秘密警察である国家保衛省管轄の船があり、これらの船は中国の港に直接石炭を輸出することができるという。

 別の情報筋によると、これらの船は100トンから500トン程度の小型で機動性があり、たとえ白昼堂々と石炭を積み込んでも漁船などの船のように見えるので、衛星に捕捉されることはない。

 また、船は石炭を積んで中国に向けて出発し、2日後に戻ってくる。7隻の船がそれぞれ100トンの石炭を輸送すれば、毎月1万トン以上の石炭を売ることができ、50万ドル(約5700万円)以上の外貨を稼ぐことができる計算だ。

 昨年初めの新型コロナウイルスの感染拡大で、北朝鮮の外貨不足は深刻だが、中国の石炭不足により、北朝鮮の石炭業界は今「中国特需」で沸いているという。

(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)

●相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。