また、ロバート・オブライエン前大統領補佐官(国家安全保障担当)はGTI総会の閉会基調講演で、コルビー氏同様、中国軍の台湾侵攻作戦の可能性が高いと主張。「台湾は非常に恐ろしい危機に直面している。台北は、台湾の防衛策を検討するホワイトハウスの担当者から前向きな姿勢を引き出せるよう、いっそう努力しなければならない」と危機感を明らかにした。
アメリカのブリンケン国務長官も6日、訪問先のフランス・パリで、台湾が設定した防空識別圏に進入する中国軍機の数が急増していることなどについて「中国による台湾付近での挑発的な軍事行動に深い懸念を抱いている。地域の平和と安定を損なうおそれがある」と指摘。そのうえで、長官は「中国政府には、台湾に対する軍事的、外交的、経済的な圧力をかけるのをやめるよう強く求める」と強調している。
しかし、中国の習国家主席は9日、1911年に清朝が倒された辛亥革命から110年となるのを記念する式典で演説し、「祖国の完全な統一という歴史的な任務は必ず実現しなければならないし、実現できる」と述べ、台湾統一に自信を示した。
その一方で、独立志向が強いとみなす台湾の蔡英文政権を念頭に「台湾独立の動きは統一の最大の障害であり、必ず人民に軽蔑され、歴史の裁きを受ける」と述べ、厳しく批判。さらに、習氏は台湾への関与を強めるアメリカなども念頭に「台湾問題は中国の内政であり、外部からのいかなる干渉も許さない」と強くけん制した。
中国側の台湾問題に関する動きについて、インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官は「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と主張するとともに、中国の急速な軍備拡大により「中国が一方的に現状変更を試みるリスクは高まっている」と危機感を示している。
また、デービッドソン氏の後任のインド太平洋軍司令官に任命されたアキリーノ海軍大将も米CNNのインタビューで、「中国は台湾を軍事的に圧倒することを目的に兵器やシステムを急速に増強しており、6年以内に軍事行動を起こす可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
すでに、習氏は今年7月1日、北京で行われた「中国共産党創立100周年祝賀大会」で演説し、「中国人民はいかなる外部勢力がわれわれをいじめ、抑圧し、隷属させることも決して許さない。そのような妄想を抱く者は誰であれ、必ずや14億あまりの中国人民が血と肉で築いた鋼の長城に頭をぶつけ、血を流すだろう」と激しい語調で語っているように、中国側が内政とみなす問題で対外干渉を受けた場合、武力で対抗する姿勢を示しており、台湾海峡危機は極めて現実な問題として迫っているといえそうだ。
(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)
●相馬勝/ジャーナリスト
1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。