地方に多い高専は、私大工学部のように時代に合わせて新増設改編を繰り返すことはないが、時代の流れに遅ればせながらついていくという印象だ。
文部科学省の学校基本調査によると、高専生の就職先は13年前の08年から18年までの10年間で、製造業が56%から50%に減り、逆に学術研究・専門・技術サービス業などコンサルト関連が3.3%から6.1%に、情報通信業が10.6%から12.2%に、電気・ガス・水道業などが5.6%から7.1%に増えている。
高専は前述したように5年制で、高校3年から教養科目が主の大学1・2年までの5年間より実験実習が多く、理工系エンジニア育成の場として期待されてきた。ところが、最近は専攻科2年に進む者も多く、さらに大学院に進む者も増えてきた。
最初から大学入試の5教科の共通テスト(旧センター入試)を嫌って高専に進学、卒業して大学3年に編入学を狙うバイパスルートも生まれている。東京大学や京都大学にはトップクラスのみだが、北海道大学や九州大学には例年合格者を出す高専もある。さらに、地方国立大で地元就職希望なら、最近はパイプが太くなっている。高専卒を優遇し過ぎるという声もあるほどだ。
全国にある高専は、地方創生の担い手になっているはずというイメージがある。有名企業での中堅エンジニアだけでなく、地元中堅企業の技術者の主役という期待もあった。ところが、就職先は有名な上場企業が多く、地元企業への就職は1~2割程度が多い。もちろん、首都圏の高専はその比率が高くなるが……。
各高専で地域との連携の窓口となるセンターや市民公開講座を開いているが、地元の雇用増につながる企業振興という点では、今一歩といえる。地方の国公立大との連携をベースに、地域振興の主役になるべきだろう。60年という歴史にはそれだけの蓄積があるはずだ。
文科省の21年学校基本調査速報によれば、現在の高専在学生は全国で5万6905人、そのうち女子は1万1930人で21%である。これは東大生の女子比率よりやや多い。
就職先を見ると、サントリーや花王、ダイキン工業、東京ガスなどの採用者が多く、それらの企業では女子の比率が30%近くと高い。今後、お茶の水女子大学と奈良女子大学の国立女子大の2大学に工学系学部が新設される予定で、私立女子大でのデータサイエンス学部も含めて、理系女子の学び場は広がっている。
ただ理工系は、文系に比べ、女子学生へのセクシャルハラスメント(セクハラ)だけでなく、アカデミックハラスメント(アカハラ)も多いというリサーチや報告も多い。研究がチームワークで行われていることも背景にあるといわれるが、理工系大学研究者のジェンダーフリーの意識が低いことも指摘されている。多くの女子が高専に進学する場合、校内の学生相談室などの役割が期待される。
高専も従来の学科に加えて、都市生活や消費に関する研究テーマや女性の視点が欠かせないデータサイエンスなどで、理工系女子の志望者が多い学びの場が増えている。大学に先駆けて理工系女子の研究の場を提供するべきだ。
地元の地域振興だけでなく、彼女らの国際的コミュニケーション能力を生かして、文科省が取り組みの方向性を示す高等専門学校教育の高度化・国際化の機能強化(グロバール化)の進展が期待できるからだ。
(文=木村誠/教育ジャーナリスト)
●木村誠(きむら・まこと)
早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『「地方国立大学」の時代?2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)。他に『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。