地域別に収益動向を確認すると、アジアパシフィック事業および米州事業は安定的に成長を実現している。感染の影響によって欧州の収益環境は不安定だが、買収によって取り込んだブランドはしっかりと競争力を発揮している。その結果、各地域における主要ブランドは、数量ベースで見た各地域の清涼飲料水市場の成長率を上回っている。
見方を変えれば、企業に求められることは、各地域の消費者の好みをしっかりと認識し、価値観にあった商品開発やブランド戦略を強化することだ。国内市場であれば消費者の好みは把握しやすい。しかし、海外では言語や文化の違いなどもあり自前での対応にはコストがかかる。競合相手に先駆けてブランド競争力を持つ企業を買収したり、提携したりする意義は大きい。その考えをサントリーおよびサントリー食品は着実に進めてきた。
例えば、サントリー食品のタイ事業ではペプシコとの提携の下で販売されている「ペプシ」ブランドが人気だ。その一方で、ベトナムではサントリー食品が開発したウーロン茶の「TEA+(ティープラス)」ブランドが人気を得ている。ベトナムではペプシコのエナジードリンク「スティング」も人気を得ている。
今後の展開を考えた時に重要なのが、世界的な健康と環境への意識の高まりだ。健康への意識への高まりに対応するために、米ペプシコは、オレンジジュースなどで人気を得てきた「トロピカーナ」など北米ジュース事業を 約33億ドル(約3600億円)で投資ファンドに売却する。ペプシコは米国でのトロピカーナの販売権を維持しつつ、得られた資金をカロリーゼロの飲料開発や買収に充てるだろう。経済成長によってアジアなどの新興国市場でも健康によい清涼飲料水を買い求める消費者は増えるだろう。
もう一つが気候変動への対応だ。地球温暖化問題は専門家の想定を上回るペースで進んでいる。マイクロプラスチックによる汚染も深刻だ。それらの問題に対応するために、米国の新興企業であるテラサイクルが運営するリターナブル容器などの利用サービスであるLoop(ループ)事業が注目を集めている。気候変動や環境問題への対応強化は企業イメージの向上に不可欠だ。
以上をもとにサントリー食品の事業展開を考えると、まず人々の健康への意識の高まりを収益につなげるために、研究開発と事業ポートフォリオの入れ替えの重要性が増す。海外でのブランド戦略の強化のために、買収と提携戦略も強化されるだろう。ペプシコがベトナム事業などでサントリー食品と提携した背景には、緑茶飲料など同社の強みを取り込む狙いがある。世界的な健康への意識の高まりはサントリー食品にとってビジネスチャンスの拡大といえる。
環境面に関して、国内外で同社はリサイクルペットボトルなどのサステナブルボトルを導入し、再生可能エネルギーを用いた生産体制の強化にも取り組んでいる。それに加えて、中長期的には、カーボンニュートラルを目指した物流網の確立、リターナブルな容器を用いた清涼飲料水の販売やサブスクリプション事業など、多様な展開が想定される。いずれも、「サントリー食品は健康と環境を重視している」という企業イメージの強化につながるだろう。健康によい高付加価値型の商品開発を進めて収益を獲得する。その上で、マーケティング戦略や、気候変動および環境問題への取り組みを強化するためにサントリー食品がどのように経営資源を再配分するかに注目が集まるだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
●真壁昭夫/法政大学大学院教授
一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。