しかし、ピアノ教室に通ったとしても、何か目標がなければやる気は続かないものです。そこで、コンクールを開催すれば、生徒たちは優勝を目指して日々の練習に熱が入るようになります。
ヤマハはピアノ製造からスタートしましたが、ピアノを買い、教室に通い、コンクールに出るというサイクルをつくることで、人々が音楽に慣れ親しむ土壌づくりに成功。さらには、エレクトリック機器のライトミュージック分野、ホームスタジオ分野等々、さまざまな音楽文化を創造しています。
この先駆者の動きを見ていたギブソンは、ヤマハのように世界規模で親しまれる総合ブランドへの転身を図り、音響機器関連の企業を次々に買収したのでしょう。しかし、買収した先と共有すべきビジョンがなかったのだと思います。
もし、ギブソンが買収後に叶えたい夢や希望を明確に描いていたら、負債を背負ったまま経営破綻することはなかったのではないでしょうか。
そして、もうひとつ。ギブソンはマンドリン製造から出発したギターブランドです。おそらく、木材の使い方にはこだわりがあったと思います。もし、「木へのこだわり」を軸に事業を展開していたらどうでしょうか? 音質、材質に信頼のおけるブランドです。木材の特性を活かしたスタジオやコンサートホールを手がける事業を起こしていたら、成功していたかもしれないと思いませんか?
今となっては完全な「たられば話」ですが、これらの事例は、軸にするものや自分たちが持っている価値への認識が間違っていたのだと思います。今後、M&Aを検討されている場合は、惜しい事例に名を連ねないよう、気をつけていただきたいものです。
(松下一功/ブランディング専門家、構成=安倍川モチ子/フリーライター)