日立は産業機器や鉄道、家電など日本を代表する製造業大手だが、近年は単純なモノ売りから脱し、モノとインターネットをつなぐデジタル企業への転換を進めている。今回のグローバルロジックの買収も、その一環。日立が成長戦略の中核とする「ルマーダ」の世界展開を加速させる狙いがある。
理想は高いが、現実の数字はまだそこまで届いていない。連結売上高に占めるIoT関連比率は13%。インフラ事業を中心にデジタル化が遅れている。グローバルロジックの20年度の売上高は9億2800万ドル(約1000億円)にとどまるが、買収額は有利子負債の返済分も含め1兆368億円と1兆円の大台を超える。
買収資金を何年で回収できるかの目安となる「EV(企業価値)/EBITDA(利払い前・税引き前利益・償却前)倍率」でみると、21年予想ベースだと約37倍になる。M&Aの関係者からは「高値づかみ」との疑問の声が出る。
買収資金の内訳は、手元資金約2000億円と銀行借入れ・社債で約8000億円である。1兆円のうち7000億円は営業キャッシュフローと資産の入れ替えで捻出し、1年後には返済義務のある有利子負債は3000億円程度がドル建てで残ると見込んでいる。
実は日立は奥の手を用意している。グローバルロジックの買収資金は、上場子会社の日立金属の売却で調達する。米投資ファンドのベインキャピタル、国内系ファンドの日本産業パートナーズ、3メガバンクと日本政策投資銀行が共同出資する企業再生ファンドのジャパン・インダストリアル・ソリューションズの日米連合が、日立金属の優先交渉権を得た。日立は日立金属株の約53%を保有しており、全株を売却する方針。売却額は8000億円を超える見通しだ。
グローバルロジックの買収に伴う「のれん代」は7100億円にのぼる。買収後の成長が見込み通りにいかなければ、将来的に減損処理を迫られることもあり得る。ルマーダ事業とのシナジー効果をどこまで出せるかかが、日立変革の行方を左右する。21年3月期決算でEBIT(利払い前・税引き前利益)が1兆円を超えた企業は約70社。日本企業ではソフトバンクグループ、トヨタ自動車、NTT、ソニーグループ、KDDIが入る。
小島新社長が目指す、日立の「1兆円クラブ入り」を実現するのは並大抵なことではない。
(文=編集部)