「テロリストにとって反米というスローガンはもはや時代後れである」との指摘もある。アラブ首長国連邦(UAE)などのアラブ諸国とイスラエルとの間で国交が樹立した現在、「反米」はアラブの富豪からテロ活動資金を引き出せる「錦の御旗」ではなくなっている。かつてのようにタリバンがアフガニスタンを制圧したからといって、ただちにテロリストが米国に押し寄せるわけではないのである。
面子を捨てた米国がタリバンと秘密裏に和解するようなことになれば、アフガニスタンに潜在するテロリストを恐れなければならないのは中国ということになる。タリバンの首脳部は中国の意向に従うそぶりを示しているが、中国で生活するウイグル人たちへの圧政を看過すれば、イスラム原理主義を標榜する存在意義があやうくなる。烏合の衆であるタリバンの中央の指令が末端まで徹底されるという保証もない。
米ホワイトハウスは17日、アフガニスタン政府に支援した武器などの相当数がタリバンの手に渡ったことを認めた。カネに困ったタリバン兵が最新鋭の米国製兵器をETIMのメンバーに横流しすれば、中国にとって最凶のテロリストが誕生することになる。中国人民解放軍は18日から、タジキスタン領内で同国軍と共にアフガニスタンからのテロリスト潜入を防ぐための軍事演習を開始した。タジキスタンにはロシア軍が駐留しており、中国の軍隊が同国内で演習を行うのは極めて異例のことである。中国が「混乱の矢面に立たされている」という危機意識を持っていることの証左であろう。
「サイゴン陥落は米国時代の終わり」と嘯いていた旧ソ連だったが、15年後に崩壊したのは自らだった。「『大国の墓場』であるアフガニスタンに派兵しない」とする中国だが、英国、旧ソ連、米国と同様の失敗を繰り返すのは時間の問題なのではないだろうか。
(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)
●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職