<スカートをはいて中学校に通いたい――。福岡県内の公立中学校に通う、2年のトランスジェンダーの女子生徒(13)は、中学入学当初から性自認にそった女子の制服で通う>
6月20日付朝日新聞デジタル記事がこうレポートした。この生徒の生まれたときの性別は男。しかし、幼いころから違和感があった。スカートをはきたかったが、小学校は我慢してズボンで登校した。母親は生徒が幼い頃から、これに気づいていた。スカートをはきたがり、女の子向けとされるおもちゃで遊ぶ。「男の子だと思ったことは一度もない」と母親。自宅にいるときは着たい服を選ばせた。生徒と母親にとって、一番の課題は中学入学だった。男女別の制服がある。母親は小学校に相談。小学校と中学校が入学前から話し合い、環境を整えた――。
電通ダイバーシティ・ラボが日本の消費者6万人(20~59歳)を対象に20年12月に実施したインターネット調査によると、「LGBTなどに該当する」と答えた人は8.9%。15年の調査から1.3ポイント上昇した。LGBT層による国内消費の市場規模は5兆4163億円と推定されている。百貨店やホームセンターの市場規模(約4兆円)より大きい。衣料品や靴などファッション関連だけでも、その消費は2859億円にのぼる。
LGBTなど多様性への対応は採用だけでなく商品企画にも及ぶ。男性用、女性用という、これまでの衣料品の常識が崩れつつある。LGBTに配慮した取り組みは欧米企業が先行するが、国内でもアパレル各社が動き始めた。
良品計画が運営する「無印良品」の全国主要店は、今年春から男女兼用の売り場を設けた。男女両方のマネキンを並べ、性別に関係なく誰でも買いやすい売り場をつくった。シンプルでゆったりと着られるデザインのパーカーやTシャツなど25商品を揃えた。今秋冬物ではコートやカットソーを追加して、全商品の最大3割程度を兼用品にした。22年には靴下などを除く衣料品の半数の250品目を兼用品とする方針だ。
導入までの過程では、商品開発の常識を破る必要があった。洋服に男女別の仕様が残っている。ワイシャツのボタンでは男女でボタンの位置が違う。裾も女性用では胸元から絞ってある商品が多い。良品計画ではボタンは使わず、ヒモで留めるワイシャツをつくったほか、誰でも着やすいように形状にも余裕を持たせた。パーカーとTシャツは男性向けは肩幅を広く、女性向けは腰回りを細くするといった、これまでの区別をなくした。もともとシンプルなデザインが特徴の無印の衣料品は、男女兼用を増やしても顧客のニーズに応えられると判断した。
先行する欧米の衣料品業界では、アパレル世界最大手インディテックス(スペイン)が主力ブランド「ZARA(ザラ)」で16年に男女兼用商品の取り扱いを始めた。ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M、スウェーデン)も19年初めに新興ブランドと組んで靴やアウターを揃えた。
国内に目を転じると、アパレル大手オンワードホールディングスが4月、子会社を通じてジェンダーレスをテーマにした商品の専門ブランド「イーコール」を立ち上げた。「フルレングス ラップ パンツ」という、スカートとズボンを掛け合わせた商品は、「スカートは女性が着用するもの」という固定概念を壊した自信作だ、という。紳士服大手の青山商事は4月、男女兼用商品の取り扱いをはじめた。スーツは男女の差が出やすいが、カジュアル衣料の分野では多様性に配慮することができるとしている。
21年は男女兼用衣料の元年となる。良品計画は9月1日付で専務取締役兼執行役員の堂前宣夫氏(52)が社長に昇格する。松崎暁社長(67)は代表権のない取締役副会長に退く。
堂前氏はコンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、1998年、ユニクロを運営するファーストリテイリングに入社。取締役として海外事業を主導し、一時は、柳井正会長兼社長の後継者と目されていた。2019年2月、良品計画に入社後は上席執行役員営業本部長を経て、20年9月、専務取締役に就いていた。堂前新社長と古巣のファストリの対決に注目が集まる。
カジュアル衣料業界が口火を切った男女兼用衣料。どれだけ売れたかは1年後に結果が出る。良品計画は衣料品の半分を男女兼用商品とするという大胆な衣料品戦略を打ち出した。男女別の衣料品という固定概念を壊すことに挑戦する堂前新社長の手腕が問われることになる。
(文=編集部)