「Getty Images」より
火災保険がまた値上げになります。値上げの時期は来年(2022年)の夏から秋にかけてと思われます。値上げ幅は、保険会社によって異なりますが、おそらく10%前後と思われます。ただ、同じ保険会社でも都道府県によってかなり差があり、なかには30%程度も値上される地域があるかもしれません。2019年10月、そして今年(2021年)の1月にも値上げが実施されており、更新のたびに保険料が上がることに驚いている人も少なくないでしょう。
値上げとなる理由は、“元となる保険料率”が引き上げられるからです。損害保険では、損害保険料率算定機構という組織が“元となる保険料率”を決めています。「参考純率」といいます。“参考”ですので、必ずしもこれにこだわる必要はありませんが、ほとんどの保険会社はこれに、自社でかかる経費を上乗せして保険料を決めています。そのため、参考純率が引き上げられると、各社の保険料が値上げされるのです。各社が一斉に値上げをするので、価格競争が起きにくく、デフレのなか、毎年のように値上げが続いています。
参考純率が引き上げられている原因は、保険金の支払いが増加しているためです。といっても火災が増えているわけではありません。風災や水害などの自然災害が増加しているのです。火災保険とはいっても、保険金支払いの理由で圧倒的に多いのは自然災害です。この自然災害による保険金の支払いが増えており、それが参考純率の引上げにつながっています。
今回、全国平均で10.9%引き上げられました。今までの例を見ると、参考純率が引き上げられた1年少し後に各保険会社が保険料を引き上げています。経費を切り詰めて、値上げ幅を抑えることもできますが、保険会社にとって火災保険は大きな赤字です。さらに引き上げる可能性も十分にあります。
火災保険が赤字になっているのは、ここ数年、保険金の支払いが急増しているためです。地球温暖化による影響でしょうか、自然災害が頻発しており、保険金の支払いは増加傾向にあります。ただ2018年は、その前5年間の平均を4倍も上回るほどに激増しました。そして、2019年も同じぐらいの金額になる見込みです。
年によって波はありますが、これほどの急激な増加は地球温暖化では説明がつかないでしょう。2018年は関西圏を、2019年は首都圏を台風が直撃し、都市部で大きな被害が発生しました。そのために保険金の支払いが急増しています。2020年は都市部を襲う大きな災害がなく、保険金支払いは大幅に減少していますが、今回の引上げは2019年までの状況を受けていると考えられます。今後の災害の状況はわかりませんが、保険金の支払いが落ち着くようであれば、来年に値上げされる保険料はかなり割高なものになるかもしれません。
損害保険料算定機構では、参考純率を都道府県単位で決めています。それを受けて保険料も都道府県で一律というのが一般的です。しかし、実際の災害リスクは、自宅の場所や周りの地形などによってかなり違います。最近では、実際のリスクに応じて保険料に差をつける取り組みも始まっていますが、まだこれからというところです。保険料が都道府県で一律ということは、風災や水害の被害が起きにくい場所であれば、必要以上に割高な保険料を払っていることになります。
保険料とリスクの発生確率の関係は、一般にはなかなか難しい問題です。たとえ割高な保険料であっても、加入することで“安心”が得られるのであれば、お得といえるのかもしれません。火災保険に加入するのであれば、来年に保険料が値上げされる前に加入するのがよいでしょう。ただ、火災保険への加入は必須ではありません。リスクの大きさに対して保険料が割高だと思えば、「加入しない」という選択肢もありえます。少し古いのですが、2012年のデータでは、火災保険への加入率は約85%です。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)
●村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー
ファイナンシャル・プランナー(CFP・1級FP技能士)、
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、証券アナリスト、
国際公認投資アナリスト
神奈川大学大学院 経済学研究科卒業
大和証券に入社し、法人営業、個人営業、投資相談業務に13年間従事する。
ファイナンシャル・プランナーとして独立し、個人の生活設計・資金計画に取り組む。
個別相談、講演講師、執筆などで活躍。