今の釣りブームが“間違っている”根本的な理由…消費者心理と「釣りキッズ」育成の重要性

 人生最初のPCとしてMacを使った人は、たぶん継続してMacユーザーになるだろうし、iPadでMac製品を使い始めた人もしかりだ。まだ真っ白な頃に習慣づけられたものは、たとえ一度離れたとしても、再度始めるときに抵抗は薄い。

 コロナ禍で釣りブーム以外に注目されているもう一つの現象にも、似たような理由がある。バイクの販売が好調で、おまけに中古車(旧車)市場が活況だというのだ。密を避け、公共交通機関を使わないで移動できる点が注目されているとの理由もあるが、その中心にいるのが「リターンライダー」と呼ばれる、若い頃にバイクに乗っていた「昔やんちゃしてた」世代。今、このブームを牽引しているのは50代だという。年代的にお金と時間の余裕ができ、かつての思い出のあるバイクに再び乗りたいと「リターン」してきているわけだ。

 このブームと連動するように、当時の人気車種の取引価格が高騰していると聞く。コロナで行動制限を余儀なくされ、加えて旅行や外食が減ったため使える小遣いができた人々が、子どもや若い頃に好きだった趣味に再びお金を使う――のだとしたら、狙うのは「これから始めます」という層ではない。将来の消費を生む種まきこそ、その業界を息長く支えてくれるのではないだろうか。

時すでに遅し。もはや絶滅危惧種の業界も?

 話を「釣り」に戻そう。

 ブームを呼ぶには若者や女性の参加が大事、それには「手軽さ」「快適性」「ファッション性」、さらに今なら「SNS映え」がマスト要素になる。しかし、長く釣り人口をキープするには、「映える釣りインスタグラマー」より、子どもの頃から日常的に釣りに親しむ体験や習慣こそがキモではないか。大事にするべきは、若者やカップルよりもファミリー層だと思う。

 実際に堤防釣りの現場に行ってみれば、日よけ用の簡易テントや折り畳みチェアを携えた親子連れがサビキ釣りを楽しんでいる光景をよく見かける。数こそ釣れなくても、親と一緒に潮風に吹かれて釣り竿を握る子どもたちは、それだけで楽しそうだ。きっと、年月を経ても「釣りって楽しかったな」という記憶の刷り込みができるだろう。たとえ魚臭くても、エサがにょろにょろ動いても、子どもはあまり気にしない。たぶん、大人になってからも耐性がついている。

 先の100均釣り具も、本格的に道具を揃えて――というこだわり層ではなく、手軽なレジャーとしてお金をかけずにやってみたいというファミリー層にピッタリではないか。家族で訪れるショッピングモールやホームセンターなどに、安価で手に取りやすい釣りアイテムを常備してもらうほうが、釣り業界の未来に貢献するのではないか。

 私たち消費者は、“昔からこうだった”“前からこれ使っている”という習慣に、知らないままに誘導されているものだ。初めて契約したときのままスマホのキャリアを乗り替えていないという人も少なくないが、それは最初の習慣をそのまま引きずるからであり、だからこそ各キャリアは「学割」サービスで学生を囲い込もうとしたり、家族割引に力を入れるのだ。

 逆に言えば、子どもの頃に習慣をつけないと、どんどん縮小してしまう業種もあるだろう。筆者はかつて出版社に勤務していたため、もし子どもから「紙の本を読む」習慣がなくなれば、いつか本は消えてしまうのでは、と危惧してしまう。今や新聞を取らない家が増えているというが、そういう家に育った子どもは、大人になっても新聞を取るという選択はたぶんしない。記事の中身をどんなに吟味しようとも、魅力的な連載を載せようとも、その根本習慣が変わらない限り、新聞の部数がV字回復することはないだろう。

 息長くビジネスを続けようと思うなら、インフルエンサーよりも子どもを囲い込む。それがひとつの正解だろう。ただし、芽吹くまで気の長い時間は必要になるけれども。

(文=松崎のり子/消費経済ジャーナリスト)

●松崎のり子(まつざき・のりこ)
消費経済ジャーナリスト。生活情報誌等の雑誌編集者として20年以上、マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析した経験から、貯蓄成功のポイントは貯め方よりお金の使い方にあるとの視点で、貯蓄・節約アドバイスを行う。また、節約愛好家「激★やす子」のペンネームでも活躍中。著書に『お金の常識が変わる 貯まる技術』(総合法令出版)。Facebookページ「消費経済リサーチルーム