会の10人は同城跡で与えられた60メートルの間を全員でゆっくり走り、その間、全員がトーチを交替に持った。森さんは「聖火が着いた瞬間、心が震えた。終わったときは涙が出かけた」と感無量の様子。近藤会長は「これで1964年からのタスキがつながった。選んでくださった井戸(敏三)知事はじめ、皆さんのおかげです。これで若い世代にバトンタッチできましたよ」と喜んだ。
幻のランナーには女性もいた。57年前に選ばれていた中西鈴子さん(71)は当時、西宮市立大社中学3年の強豪卓球の部員で市内大会でも優勝していた。「あれ以来、選ばれていたことは家族らにも話したことはなかったけど最近、話題になったので初めて息子らに話しました。遠くなので息子は見に来られなかったけどなんとか終わりました」とほっとした様子で話した。
積年の無念を晴らした10人は満足そうだった。残る課題はコロナ禍、芦屋市の老舗ホテル竹園芦屋で開く予定の打ち上げ会がいつできるのかということだそうだ。
(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)
●粟野仁雄/ジャーナリスト
1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。『サハリンに残されて-領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像-阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故-福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの-哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍-国家的不作為のツケ』『「この人。痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。