楽天のスポーツビジネスが大成功している本当の理由…ソフトバンクの戦略との共通点

 これは、ハード(スタジアム)とソフト(球団)の一体経営が進んでいるからなせる技である。一体経営により、スポンサー営業などあらゆる点で効率化が図られ、収支も劇的に改善されるのだ。イーグルスはスタジアムの「ボールパーク化」も推進し、本拠地の楽天生命パーク宮城には観覧車や公園などを設置。単なる球場ではなくアミューズメントスポットへと進化させ、来場者数を伸ばしている。

 近年、プロ野球界では一体経営が多くなっているが、Jリーグではいまだに行政所有の施設を借りているチームが多い。チームだけでなく、グループ全体でいかに収益化するかが重要なのである。

 さらに、葦原氏は楽天の人事編成にも注目し、旧来型のスポーツ運営と比較する。その特徴は、外部からの人材を積極的に起用していることだ。

「たとえば、イーグルスにアルバイトで入り事業責任者を務めた人物がヴィッセルに派遣されるなど、成果主義が行き届いています。また、従来のスポーツ運営には体育会系の競技出身者が関与するケースが多かったですが、楽天では多様な人材がチームを運営しています。この点はソフトバンクも優れていて、東大ラグビー部出身で日本テレコムにいた三笠杉彦氏をGMに据え、補佐にハーバード大卒の嘉数駿氏を置いています」(同)

 スポーツビジネスにも客観的な視点を持つ人材が不可欠ということだ。

「データ活用や外部からの若い人材の獲得を積極的に行う楽天やソフトバンク、DeNAなどの新興球団が日本のスポーツビジネスをリードしています。片や、3年に1回、60代くらいの本社幹部が球団上層部にやってくるという“昭和的運営”の球団もある。先進的なチームは日本のスポーツビジネスのさまざまな問題点をわかっているはずですが、旧来型チームの幹部が重い腰を上げないので、なかなか全体の改革が進まない印象です」(同)

NPBとMLBの市場規模に大差がついた理由

 改革すべき点のひとつが、リーグのガバナンスの強化だ。

「野球界でいえば、1995年のNPB(日本プロ野球)とMLB(メジャーリーグ)の市場規模はほぼ同等でした。しかし、現在はNPBが2000億円、MLBが1.1兆円と大きく水をあけられています。この理由は、平たく言うと、MLBはリーグが強いリーダーシップを持って変えていったから。たとえば、放映権。これは各球団がバラバラで持っているより、リーグが保有することで、より高く売ることができます。ホームページなどもリーグでまとめてつくれば安く済むし、ファンにとっても見やすくなるなど、リーグのガバナンス強化によって事業の効率化が図れるのです」(同)

 チケット販売なども同様にリーグ主導の方が効率が良く、ファンにとってもメリットがある。

「チケット購入の際に必要なIDなども、リーグで共通していれば、どこの球場でも買いやすい。Jリーグは各種サービスで利用できる共通のアカウントがあります。なかなか簡単な話ではないですが、長期的にひとつの競技ではなく、野球、サッカー、バスケ、ハンドボールなどのチケットやグッズの購入もひとつのIDで済むなら、波及効果は抜群です」(同)

 市場規模などを含めると、日本のスポーツビジネス界の王者がプロ野球であるという点は揺るがない。葦原氏は、日本のスポーツビジネスの変革もプロ野球界が率先して行うべきだと話す。

「なんとなくチケットを売って、なんとなく選手を揃えて、勝ち負けの結果だけを見るという、かつてのスポーツビジネスではなく、チーム運営において評価、分析、管理を重視する意識が日本でも徐々に浸透しています。その代表格のひとつが楽天です。野球とサッカーでプロチームを持って、しっかりと結果を出しているので、ひとつの成功モデルと言ってもいいでしょう。今後も、楽天をはじめ、ソフトバンクやDeNA、あとは新球場をつくる北海道日本ハムファイターズあたりが日本のスポーツビジネスを牽引していくと思います」(同)

 彼らの今後の改革を、いちスポーツファンとして注目したい。

(文=沼澤典史/清談社)