特に、我が国で非正規の雇用者比率が上がりやすい背景には、正社員を解雇しにくい日本特有の雇用慣行がある。例えばコロナショック後のように急激に業績が悪化する局面では、企業は最大のコストである人件費の削減を余儀なくされる。ところが人件費の大部分を占める正社員の雇用は調整しにくく、非正規社員または新卒採用を減らすかしか現実には方法がない。こうした日本特有の雇用慣行により、不本意非正規の雇用者にしわ寄せが来やすい。
実際、最も代表的な雇用環境を示す指標である完全失業率は低下しているが、広義の失業率ともいわれる未活用労働指標は逆に悪化していることには注意が必要だろう。
というのも、完全失業率は就業者と完全失業者を合わせた労働力人口に占める完全失業者の割合を示したものだが、直近の四半期データに基づけば、今年1-3月期時点で▲0.1ポイント低下の2.8%となっている。そして男女別で見れば、男性が▲0.2ポイント低下の3.0%に対して、女性が+0.1ポイント上昇の2.6%となり、女性の雇用環境が悪化しているように見える。
しかし、就業していてももっと働きたいと考えている人や、非労働力人口の中でも働きたいと考えている人も存在するが、そうした人たちは完全失業者にはカウントされていない。このため、総務省は平成30年からこうした状況を加味した広義の失業率ともいえる「未活用労働指標」を集計して公表している。
そして、なかでも最も範囲を広げた未活用労働指標LU4(=「労働力人口+潜在労働力人口」に占める「失業者+追加就労希望者+潜在労働力人口」の割合)を見ると、今年1-3月期時点で+0.6ポイント上昇の7.1%の水準にあり、特に男女別では男性が+0.5ポイント上昇の6.1%にとどまっているのに対し、女性が+0.7ポイント上昇の9.1%の水準にあることがわかる。
この理由としては、非労働力人口のなかでも働きたいと考えていても、就業環境の厳しさや感染を恐れて求職活動していない人たちが失業者としてカウントされていないこと加えて、女性の割合が高い非正規労働者を中心にもっと働きたいと考えている人が多数存在すること等が推察される。したがって、景気が良くないわりに失業率が低く抑えられているからといって、楽観視できないということは未活用労働指標からも明らかである。
以上の分析に基づけば、仮に緊急事態宣言の時期や期間をさらに拡大するようであれば、政府には予備費を有効に活用した柔軟で迅速な政策対応が求められるといえよう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)
●永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト
1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。