理系女子を生む“女子大”最前線…武庫川女子大&京都女子大の先進的な取り組みとは?

 共学大では、ここ1~2年、データサイエンス学部が文理融合型の新学部として注目されている。国立の滋賀大学、公立の横浜市立大学、私立の武蔵野大学、立正大学に設置され、他にも国立大学工学系にデータサイエンス関連の学科や専攻を設けているところは多い。

 当初は、トップバッターの滋賀大に彦根高商の伝統があり、横浜市大も商学部が看板学部だったこともあって、データサイエンスを経済や商活動の分析と結びつけるイメージがあった。確かに、顧客や消費者のデータを分析してビジネスに反映させることで、経済的なメリットがもたらされる。ところが、最近のAIによるデータ分析は、囲碁や将棋の世界のように人のいろいろな活動分野に広がりつつある。

 その意味では、人間生活全般を学びの対象とする学部学科が多い女子大に、なぜデータサイエンス学部が生まれなかったのか、疑問であった。そのノウハウを持っている女子大は多いはずである。

 たとえば、大妻女子大学の社会情報学部社会生活情報学専攻は「経済・経営学系」「社会学系」「メディア学系」に分かれており、データサイエンスは確かに「経済・経営学系」と関連が深い印象だが、今や他の専攻に深く関連する研究テーマと思われる。

 京都女子大学では、2023年にデータサイエンティストを養成する新学部の開設を構想している。女子大では初めてだ。社会科学的視点から多様なイシューを解決に導くことのできる人材育成を目指すというが、これでは滋賀大や横浜市大など既存のデータサイエンス学部の路線踏襲になってしまう。もっと幅広く、人間生活全般の視点からのデータサイエンスを期待したい。

 同大では、さらに、全学的なデータサイエンス教育を含む新たな教育課程の整備に取り組むとしているので、文学部・発達教育学部・家政学部・現代社会学部・法学部などのうち、たとえば発達教育学部の心理学科など、データサイエンスに近い分野からのアプローチもできそうだ。

女子大が「情報」の専門家を育てるべきだ

 2025年の大学入学共通テストから、国立大学の受験生には原則として「6教科8科目」を課す方針が具体化しそうだ。現行の「5教科7科目」に、プログラミングなどを学ぶ教科「情報」を上乗せする方向だ。

「情報」は2003年度から高校で全員が必ず履修する教科となっている。2022年度の高1から導入される新学習指導要領では、情報Iと情報IIの2科目に再編される。プログラミングなどを学ぶ「情報I」は必修で、データサイエンスの手法を使った分析も学ぶ発展的な「情報II」は選択科目となっている。共通テストの問題作成を担う大学入試センターが、2025年実施の共通テストから出題教科に「情報」を追加し、出題範囲は必修の「情報I」の内容とした。

「情報I」の内容は、(1)情報社会の問題解決、(2)コミュニケーションと情報デザイン、(3)コンピュータとプログラミング、(4)情報通信ネットワークとデータの活用である。

 しかし、中学・高校の学校現場では専門知識を持った教員の不足が危惧されている。全国の学校を対象とした文部科学省の調査では、情報担当教員の2割が「情報」の免許を持っていなかった。2003年から実施していて7年も経過しているにもかかわらず、「情報」の授業が充実しているとはいいがたい。しかし、大学入学共通テストで課されるということになれば、そんな安穏なことは言っていられない。各高校も全力を挙げて、専門教員確保に走るであろう。

 その意味では、学校教育の面からもデータサイエンスの専門家がさらに必要となっている。女子大による、教育や生活科学にも通じた「情報」人材の育成は待ったなしの状態と言えるであろう。

 逆に、女子大にとってもチャンスと言えるのではなかろうか。女子大の手づくりの良さを生かした対面授業に、オンラインをフル活用したデータサイエンスの授業を組み合わせる「ハイブリッド大学教育」を展開できるからだ。

(文=木村誠/教育ジャーナリスト)

●木村誠(きむら・まこと)
早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『「地方国立大学」の時代-2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)。他に『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。