米動画配信大手ネットフリックスが昨年末、配給作品ランキング「2020年日本で最も話題になった作品TOP10」を発表した。1位は「2020ユーキャン新語・流行語大賞」のTOP10にも選出された韓国ドラマ『愛の不時着』だった。韓国の令嬢がパラグライダー事故で北朝鮮に不時着し、現地の軍人と恋に落ちる――。
20年2月から日本で独占配信した『愛の不時着』は視聴率ランキングで首位を走り、“第4次韓流ブーム”と呼ばれる社会現象を起こした。日本に上陸して5年目にあたる20年8月末の国内有料会員数は500万人に膨らんだ。1年前より200万人増加した。『愛の不時着』効果である。新型コロナウイルスの感染拡大によって、自宅で動画を見る人が増え、巣ごもり需要をうまく取り込んだ側面もある。
ネットフリックスは新型コロナウイルス禍で業績と株価が上昇した企業の代表格だ。コンテンツ産業の王者、米ウォルト・ディズニーに時価総額が肩を並べるまでになった。
10年前には両社の時価総額は9倍近い差があった。20年9月にはどちらも2000億ドル(約21兆円)を超えた。「ネットフリックスの時価総額がディズニーを上回る日が来るのではないか」と話題になった。その後も同社の株価は値上がりを続け、21年1月、時価総額は26兆円に達した。日本企業で最大であるトヨタ自動車の27兆円に匹敵する数字だ。
ネットフリックスの21年1~3月期決算は売上高が前年同期比24%増の71億6328万ドル(約7700億円)。純利益は同2.4倍の17億671万ドル(約1800億円)。売上、利益ともに過去最高を更新した。1~3月期は英国の社交界を描いたコメディーの『ブリジャートン家』やサスペンスの『Lupin/ルパン』が人気を博した。
とはいえ、20年10~12月期末と比較して新規有料会員の純増数は会社予想(600万人増)を大きく下回り398万人増。前年同期の純増数(1577万人増)と比べると、およそ4分の1。巣ごもりしていた人々が外出するようになり、21年3月末の会員数は2億764万人と前年同月比で14%の増加にとどまった。
米国とカナダが7438万人(20年12月末比で45万人増)、欧州・中東・アフリカが6851万人(同181万人増)、日本を含むアジアは2685万人(同136万人増)。いずれも増加のペースは鈍った。株主への文書で「大幅な前倒しと、制作遅れに伴う21年前半の新作の少なさにより、有料会員数の伸びが鈍ったと考えている」と説明した。
21年4~6月期の新規会員の契約数の予測は100万人。昨年同期比で900万人少ない数字になる。ロイターによると「会員数の伸び悩みの発表を受け、4月21日の株価は11%下落。時価総額は250億ドル(約2兆7000億円)が目減りした」という。
5月5日時点で時価総額は24兆円、一方、ウォルト・ディズニーは36兆円。両社は一時並んだが、現時点ではディズニーに大差をつけられた。モフテットネイサンソンの調べによると、米国の動画配信サービス市場におけるネットフリックスのシェアは73%で首位。アマゾン・ドット・コムが運営するアマゾン・プライム・ビデオ(第2位)を大きく引き離している。“巣ごもり特需”が消えても、地位が揺らぐことはなさそうだ。
年間1兆円を投じて制作・買い付けをしている独自コンテンツがネットフリックスの成長を支えている。1979年に創業し、DVDのレンタルサービスで成長し、07年、動画配信に参入。13年からオリジナル作品の制作を本格的に始めた。これまでに配信したオリジナルの映画やドラマは1500本を上回る。
『愛の不時着』のようなヒット作品が次々と生まれるわけではないが、オリジナル作品制作に力を入れる。日本を代表する撮影所のひとつである「東宝スタジオ」と、ステージ2棟と関連施設を21年4月から複数年にわたって賃貸する契約を結んだ。日本に制作拠点を持つのは初めてである。
東京・世田谷の東宝スタジオは「ゴジラ」シリーズをはじめ多くのヒット作が制作された日本最大級のスタジオだ。「No.7ステージ」(957平方メートル)と「No.10ステージ」(658平方メートル)を賃借。制作を発表済みの『幽・遊・白書』や『サンクチュアリ-聖域-』といった作品制作で活用する。スタジオを賃借して実写作品を制作するのは初めての試みで、15作品を配信する予定だ。
日本でのサービス開始は2015年。アニメ制作会社と提携し、50本の日本発の独自作品を配信してきた。
(文=編集部)