こだわりをみせるのは設備だけではない。従業員の制服にはフランスを中心に世界的に作品を発表している日本のアパレルブランド「メアグラーティア」が制作したものを採用している。BnAはアートとビジネスの新たな関係性を模索し、街全体にアートを飾る壁画プロジェクトやアートを軸とした内装、さらにはプロモーションイベントの企画などを行っている。
三井不動産がBnAと一緒にアートホテルを、三井不動産の“本丸”である東京・日本橋で開業したのは、若者が集う交流拠点をつくることで多様性やにぎわいを生み出すのが狙いだ。「地方在住のクリエイターらに泊まってもらい、日本橋に新たな来街者を呼び込みたい」と三井不動産は意気込む。
世界最大の美術見本市「アート・パーゼル」の調査では、2020年の世界の美術品売上高は前年比22%減の501億ドル(約5.5兆円)。米国が42%を占め、中国と英国が各20%で続き、日本はシェア1%に満たない「その他」に含まれる。
アートフェア東京を運営する一般社団法人アート東京がまとめた「日本のアート産業に関する市場調査2020」によると、日本全体の美術品の市場規模は2363億円。2019年から8.4%減少した。
ジャンル別では洋画が数字を伸ばし603億円(19年は434億円)でトップに浮上。日本画は19年の513億円から358億円に減少した。現代美術は294億円で19年の458億円から大きく落ち込んだ。わが国の展覧会の来場者数は世界でもトップクラスだが、それが市場形成に結びついていない。マーケティングに美術を活用することに関して日本は完全に立ち遅れている。
19年に日本政府が策定した成長戦略実行計画に「アート市場の活性化」が明記された。文化庁は現代美術作品をポスト・コロナにおけるインバウンド政策の要(かなめ)としており、最大限に活用したい考えだが実効が伴わない。
世界恐慌時、米大統領のフランクリン・ルーズベルトは連邦美術計画を実行に移した。芸術家を支えるために彼らに給料を払い、作品を制作させ、各地の駅・学校・集合住宅など公共施設に壁画や彫刻を飾り、美術の普及に努めた。具体的なモチーフを持たず、巨大なキャンバスに描かれる抽象表現派の大画面の作品を生み出す先駆的な実験にもなったといわれる。
令和版ニューディール政策と銘打ち、政府が日本の美術作品を買い上げて公共施設に展示するといった大胆な政策をとるべきという声もある。三菱地所、三井不動産という不動産業界のリーディングカンパニー2社がアート事業に参入した。次の大物はどこなのか。
(文=編集部)