4月25日に、東京・大阪・京都・兵庫の4都府県で緊急事態宣言が発令されました。その他の地域でもまん延防止等重点措置が適用されているところがあり、飲食業や観光業にとっては大きな打撃です。コロナ禍で昨年は景気が大幅に悪化しましたが、今年も変異種の感染拡大で、景気回復には時間がかかりそうです。
ところが、海外に目を転じると、すでに“好景気”となっている国もあります。IMF(国際通貨基金)の4月時点での予想によると、2021年のアメリカのGDP(国内総生産)の成長率は6.4%となっています。昨年のマイナス成長(▲3.5%)から回復しているのはもちろん、コロナ前の4年間(2016-2019年)の平均(2.3%)と比べてもかなり高い数値です。
中国も2021年は8.4%と高い予想です。ヨーロッパや日本も、その国の平均と比べると高い予想となっていますが、最近の変異種による感染拡大を踏まえると、下方修正が懸念されます。
アメリカではコロナ禍による景気低迷はすでに過去のものとなっていて、今は好景気の真っただ中です。3月には供給管理協会(ISM)が調査している製造業景気指数が37年ぶりの高い数値になりました。半導体を中心に部品や原材料の需給がひっ迫し、価格が上昇しています。3月の消費者物価の上昇率は8年ぶりの高水準となりました。昨年に15%近くまで上昇した失業率も、今年の2月には6.2%と半減しています。景気が良すぎてインフレが心配されているなんて、日本にいるとにわかには信じられないのですが。
アメリカの景気が急激に回復している要因の1つは、新型コロナウイルスワクチンの接種が進んでいることです。アメリカではすでに4割以上の人が1回はワクチン接種を受けています。巣ごもり消費だけでなく、ワクチン接種を受けた人による外食やレジャーなどの経済活動が回復し始めています。日本でのワクチン接種はまだ始まったばかりですので、この差は経済にも表れています。
バイデン政権による大型の経済対策も要因に挙げられます。就任早々、1.9兆ドル(約200兆円)の新型コロナ対策を打ち出しました。それによって3月には1人当たり最大1,400ドル(約15万円)が支給されました。昨年3月と12月にも現金給付が実施されましたが、今回のほうが金額は大きく、ワクチン接種済みの人が増えたことで消費の拡大につながりそうです。さらに3月末にもバイデン大統領は、8年間で2.3兆ドル(約255兆円)のインフラ投資を行うと発表しました。
アメリカでは景気が回復しているなかで大型の公共投資が発表され、早くも物価や金利の上昇など、景気の過熱が心配されるようになっています。すでに金利は少しずつ上昇に向かっていますが、日本の日銀に相当するFRB(連邦準備理事会)は当面の間、金融緩和を続けると明言しています。
それに対して、ワクチン接種が遅れている日本。3回目の緊急事態宣言が発令され、まだ本格的な景気対策を打ち出せる状況にはありません。当分は、飲食業、観光業、小売業にとって厳しい状況が続きそうです。
ただ、一方で、アメリカや中国の景気拡大で、電子部品や工作機械などを中心に輸出は増加が見込まれます。実際にこれらの業種では企業業績が回復しています。史上最高益を更新する企業も相次いで出てくることでしょう。
2021年の日本経済は、コロナ後を見据えて「景気が回復する」というよりは、「景気が二極化する」という方向に進みそうです。株式相場でも、好業績を受けて上昇する銘柄と、低迷が続く銘柄に分かれていくことが考えられます。
(文=村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー)
●村井英一/家計の診断・相談室、ファイナンシャル・プランナー
ファイナンシャル・プランナー(CFP・1級FP技能士)、
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、証券アナリスト、
国際公認投資アナリスト
神奈川大学大学院 経済学研究科卒業
大和証券に入社し、法人営業、個人営業、投資相談業務に13年間従事する。
ファイナンシャル・プランナーとして独立し、個人の生活設計・資金計画に取り組む。
個別相談、講演講師、執筆などで活躍。