「オタクの薬局は高いわね」
「薬局によって薬の値段って違うの?」
薬局で働いていると、お金のことはかなりしつこく質問されます。処方箋薬の場合、保険で対応することが多いので、この「保険のルール」を知っておくと納得して薬局を利用できます。
ひとついえるのは、薬局スタッフが値段を上げ下げできないということです。市販薬の場合は、それができます。それこそ「アリナミンEX」といったメジャー市販薬は近隣のライバル店より安くしておかないと、「あの店は高い」と客離れにつながってしまいます。しかし、処方箋薬の場合は保険を使うので、ライバル店より安くして客引きをすることはできません。また、利益を出そうと高くすることもできません。
それなのに、なぜ値段の差が生まれてしまうのでしょうか?
処方箋薬で使う保険は「社会保険」であり、国の政策の影響を受けます。この政策に沿った「優等生」の薬局を優遇して、そうではない薬局を冷遇しているのです。優遇といっても、ただ褒め称えるのではなく、金銭的に優遇します。一方、政策に沿わない薬局は金銭的に冷遇して兵糧攻めにしています。ここ数年、そのメリハリがはっきりしているので、金銭面の差は大きくついてきています。
同じ薬を処方する場合でも、国から優遇された薬局は「調剤基本料」が高く設定されるため、値段を高くしなくてはなりませんし、逆に冷遇された薬局は基本料が低く設定されるため、値段を低くしなくてはなりません。ここに差が生まれます。
どのような薬局が優遇されるのかを考えるためには、国の政策をおさえておく必要があります。2018年の国民医療費は43兆円で、前年より3239億円増加しました。この1年だけでなく、年々国民医療費は上がり続けています。私が薬剤師国家試験を受けた頃の国民医療費は年間30兆円でしたので、高齢社会が進んだことと新しい先進的な治療が進んだことの影響は大きいと考えられます。さらに高齢社会が進むに伴い、保険財政がどんどん苦しくなっていきます。
国としては、同じ薬物治療を行うならば安い薬を積極的に使ってほしいのです。これが「ジェネリック医薬品」の推進です。国の政策に沿って、薬局も「ジェネリック医薬品」を推進しています。薬局で「ジェネリックにしませんか?」としつこく聞かれるのはそのためです。そして、ジェネリック医薬品の比率が、国の目標である85%を達成できた薬局が優遇されるのです。こうして、トータルとして国の保険負担が少なく済むようにしています。薬局経営の視点で考えると、優遇された値段、つまり基本料が高くなった分はほぼ利益になるので、患者さんから「しつこい」と言われようが政策を実現しにかかります。
保険財政の視点からもうひとつ重要な問題は、「残薬問題」です。実はこれが年間500億円相当あるそうです。適切な治療のために出された薬なのに、実際飲まずに家にためこまれているのです。500億円を毎年ドブに捨てているようなものです。これを減らすことが薬局薬剤師の仕事です。
患者さんに「残薬がある」ことを、どのように薬局は把握するのかが課題です。薬局で「残薬ありますか?」としつこく聞いても、飲んでいないと思われたくないという思いから「ない」と答えてしまうのが人間です。「残薬を持ってきてね」と袋を渡しますが、これもうまくいかないことが多いです。最終手段として、患者さんの家に行って薬を漁ります。
「残薬がある」と医師に文章で報告することは、残薬問題解決のための仕事です。薬局の働きかけで処方日数を減らしてもらうというのも仕事です。患者さんの家に行って薬を管理するというのもそうです。そうした実績を積み重ねた薬局を、国は「優等生」として認定します。